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「小中学校での投げすぎ」「ダメなのはスライダー」トミー・ジョン執刀医に聞く“ヒジを壊す元凶”
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byAFLO
posted2020/09/30 18:30
2018年にトミー・ジョン手術を受けたエンゼルス大谷翔平
それは遠投だ。これはおそらく、多くの人の盲点になっている。
「遠投が全て悪いというわけではないので誤解をして欲しくないのですが、(遠投は)何の意図でやるかを理解していなければ傷めるだけの練習といえます。ただ遠くに投げて肩を強くするためにやるものだと考えていたら、肘に悪影響を及ぼします。マウンドから投げるよりも負荷がかかると僕は思っています。
遠投は上の方に向かって投げるわけじゃないですか。そうすると、地面に対して、体の傾きは後ろになるし、足首や膝の角度、股関節の角度も通常とは異なるものになります。そして、肘は下げて投げることになる。上に向かって投げるのに、上からは投げないですよね。マウンドから投げる投げ方と全く変わってしまうんです。距離感を掴むため、体を大きく使うために6、7割の強度でやる遠投ならいいと思いますが、距離を出すため、肩を強くするためって考えてやると壊すと思う」
アマチュアの練習風景で遠投を見ないことはまずない。この練習のしきたりがよくないのは、チームメイトとともに一律に行っていることところだろう。肩の強さはそれぞれが違うのに、みんな同じペースで投げる距離を伸ばしていく。古島医師の警告は聞いたほうがいい。
スライダー・カット系が危ない
さらにリスクは球種の違いにもある。
古島医師は、“抜く系”の球種は肘にかかるストレスは少ないと見ている。カーブ、チェンジアップ、フォークがそうだ。一方で、スライダー・カット系は負荷が大きい。
古島医師はスライダーにおける疲労度をこう指摘する。
「スライダー・カット系のボールは、前腕の筋肉、屈筋群を使うので、疲労しやすい。そうなると、疲労で筋肉の出力が落ちて、靭帯をカバーしている筋肉が利かなくなってくるんです。つまり、靭帯への負担が強くなる。例えば、肘全体に100の力がかかるとして、負担は靭帯が5割、骨が2割、筋肉3割なのですが、筋肉の出力が落ちると靭帯にそれだけの負担が増えてくる。そうなってくれば、どんどん痛めてしまうということです」
変化球を投げることはその球種そのものの負担ばかりを想像してしまうが、投げることが悪なのではなく、投げることの影響力を考慮に入れるべきということであろう。筋肉を疲労させるから、靭帯に負担がかかり、傷をつけるということである。「多投、連投、休養なし」は危険と言える。
「僕たちは投げるなって言いたいわけじゃない」
これら全ての問題の背景にあるのは、体の負荷に関わる古島医師の指摘をどの程度、指導する側が熟知しているかという点だろう。これは、先般話題にもなった球数制限の是非と通じるところがある。
古島医師は力を込めていう。