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「小中学校での投げすぎ」「ダメなのはスライダー」トミー・ジョン執刀医に聞く“ヒジを壊す元凶”
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byAFLO
posted2020/09/30 18:30
2018年にトミー・ジョン手術を受けたエンゼルス大谷翔平
「小・中学校時代の投げすぎから故障してしまった既往歴のある子がほとんどですよね。ただ、意外と選手が覚えていないことも少なくないんですよね。自分が過去に痛かった、怪我したことを放置している選手がいるということです。そこはいろんな選手と話していて気づいたことでもあります」
問題はその怪我の程度だ。靭帯の損傷がどの程度までなら許容範囲であるかは知っておく必要がある。もっとも、それはどの怪我でも同じだろう。つまり、早期発見なら手術は避けられるということである。
「手術したら、これからはグラウンドに入らせない」
しかし、早期発見がなかなか進まないのは、小・中学校からトーナメント方式の試合が目白押しで、出場が余儀なくされているからだ。許容できる怪我の程度は、その選手が野球に関してどれくらい先までの将来設計を描いているかで変わってくる。例えば、プロ野球選手になる目標がなくて、高校生までで野球を終えると考えるならば、痛みを我慢して投げることもあるだろう。しかし、その繰り返しで怪我が重症化してしまうのである。
つまり、アマチュア野球の世界に蔓延る「勝利」の追求が子供たちを追い詰めているのだ。古島医師は高校でのこんなひどいケースの話を紹介してくれた。
「どんな厳しいチームでやっているかも関係してくるんですよね。以前にみた患者さんで、手術しないといけない状態になっている選手がいました。本人は『高校はしょうがないので諦めて大学でしっかりやりたい』と言ったにも関わらず、高校の先生が『手術したら、これからはグラウンドに入らせない』と言われて断念したケースもあります」
これはプロのかつての姿と似ているかもしれない。
学校や指導者の評判が落ちることを危惧しているのか、選手の怪我を認めない。これほど残酷なことはない。
この球児のケースは重症だが、軽症でも病院に通うことすら認めない指導者も少なくない。早期発見であれば、1カ月の休養やリハビリで回復できるはずのものが、試合に勝つことを優先して選手の離脱を恐れ、余計に追い込んでいっているのだ。
当たり前に行われている“あの練習”が危ない!
そして肘の靭帯損傷に関わるあと2つの要素が「投球フォーム」そして「球速・球種」だ。
つまり、怪我を引き起こす原因として、幼少期の投げすぎ以外に問題となっているのが投球強度だ。一度に負荷をかけすぎるという部分である。1試合での球数も問題だが、肘に負担がかかる練習、そして球速至上主義、球種による悪影響があるという。
古島医師は、野球の練習場で当たり前に行われている“ある練習”を危険なものの一つとして挙げている。