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天才は藤井聡太だけではない “振り飛車のカリスマ”藤井猛が作った常識破りの「システム」
text by
高川武将Takeyuki Takagawa
photograph byKYODO
posted2020/09/16 08:00
2000年12月26日、竜王戦で羽生善治五冠(右)に勝利し、3連覇を果たした藤井猛竜王(肩書はいずれも当時)
「職人と言われると、嬉しいですね」
冒頭の直感力がないというのも、エリート棋士に比べ、幼少期に体で覚えた将棋ではないからだ。終盤力ではどうしても見劣りしてしまう。
「羽生さんがスーパーコンピュータだとすれば、僕はフリーズばかりするオンボロパソコンです(笑)。頭の回転が遅すぎる。本当は本能で指したい。
でもポンコツのエンジンでも高性能マシンに勝てるのが、将棋の面白いところ。エリートじゃなかったから、将棋をつまらないと思ったことがないんです」
そんな藤井が、私には一流の職人に見えてくる。車も電気製品も、日本のモノ作りは町工場の職人が支えてきた。
独自性溢れる3次元の設計図は元来、職人の頭の中にしかなく、手間を惜しまず精魂込めて作り上げた製品は、芸術作品のように美しい。
だがそれには著作権がない。パソコン上で設計図を作れるようになった近年、命である設計図と試作品をコストの安い東南アジアに簡単に持ち出され、町工場は壊滅状態になった。藤井システムの盛衰と酷似する構図だ。
だが、いつの時代も日本人の匠の技が求められるのは自明である。
「職人と言われると、嬉しいですね。そうそう、それだよって!」
藤井は弾けるように笑うと、追い求める理想の将棋について話した。
「序盤で相手に悪手がないのにいつのまにか優勢になって勝つ。相手が気づかない間に斬っている、というのが最高です。しかも何度でも使える戦法で(笑)。
いくら研究されても完璧性、芸術性がある。藤井システムでそういう格別の喜びを味わっちゃったから、独自の将棋を指すことが楽しいんですよ」
(Number783号 藤井猛「常識を打破して頂点に立った男」より)