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“藤井聡太ブーム”の喜びと危機感はラグビー&なでしこと共通 中村太地七段が語る将棋とメディア
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph byKyodo News
posted2020/09/11 18:00
藤井聡太二冠の活躍に沸く地元の愛知県瀬戸市。この全国的なブームを真の人気に定着させるため、各棋士は信念をもって今を過ごしている。
将棋を広めたい、知ってもらいたい
そして藤井さんが活躍され始めて以降、私たちも動画中継以外のメディアに出演する回数が圧倒的に増えました。その際に心がけていること――例えば地上波のテレビに出る際には「棋士・中村太地」として、将棋界を代表して臨む、と言いましょうか。
視聴者の方が「あ、棋士ってこういう人なんだな」という印象を持つでしょうから、将棋界の一員として、恥ずかしい言動をしてしまわないように常に心がけているつもりです。
メディアに出る私たちや女流棋士の基本的な姿勢として「将棋を広めたい、知ってもらいたい」「普及したい」という精神は共通しているはずです。
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――将棋の棋士というプレーヤーでありながら「広報」でもある、ですか? そうなのかもしれません。その根源には将棋界に対する危機感というか、多くの人に知ってもらいたい、広めないといけないと迫られる思いなのです。
今でこそ藤井二冠というスターが登場しましたし、羽生(善治)先生が永世七冠となったときも大きく報じていただきました。あるいは電王戦でのコンピューター将棋との対局などで注目していただいた時期がありましたが、それ以前はなかなか地上波のニュースで扱っていただく機会はありませんでした。
「プレイヤーだから将棋の盤面に集中する」という考えはあるかと思いますが、そうも言っていられないという危機感を抱く棋士は多かったはずです。
恵まれた環境にある業界なら意識が薄くなりがちかもしれません。ただ実は……将棋界は今までそういった環境にありませんでした。だからこそ地道にみんなの意識が形成されたと感じています。
なでしこ、ラグビーとの共通点
これは想像になるのですが――スポーツで言えば女子サッカー、そしてラグビーの方々も、同じような心境なのかもしれません。長年にわたって女子サッカーが注目されない時期が続いた中、なでしこジャパンに澤(穂希)さんなど素晴らしい選手たちが集結し、W杯優勝などの偉業を果たされました。
同じくラグビーも長年にわたって世界との差に葛藤しながらも強化を続け、2015年W杯で躍進。そして昨年の日本開催のW杯では「ONE TEAM」のスローガンを体現するような戦いぶりで初の決勝トーナメント進出を果たし、ものすごいフィーバーとなりましたよね。
その中で、両競技のアスリートの“一時的なブームで終わらせない”という思いはとても強いのではないか、と推察します。それは私たちが今置かれている“藤井ブーム”に通ずるものがあるのでは――と感じています。