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「佐々木朗希だわ……」80m遠投も“助走なし”ズドン、福岡の“ドラ1候補”を知っているか?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
posted2020/09/04 11:30
プロ志望高校生合同練習会。福岡大大濠・山下舜平大は150キロ3奪三振で猛アピール
「オーディション」は、見る者を感心させるだけでは足りない。「いい選手だなぁ」……そういう選手は消されていく。
「なんだ、こいつ!すげえヤツだなあ!」
そこまで強烈な印象を見る者の記憶と意識に刻みつけないと、オーディションには残れない。
今回の「西日本編」、そんな選手が何人かいたが、やはり、心底びっくりさせてくれたのは、福岡大大濠・山下舜平大だけだった。
助走なし80m……とんでもない「遠投」。
何が驚いた……といえば、やっぱり今度も「遠投」だった。
30m、40m……パートナーとの距離は離れていくのに、腕の振りの「力感」がぜんぜん変わらない。体の左右をきちんと割って、グラブサイドの誘導によって左半身を投げる方向に向けたまま左足を踏み出して、それからゆったりと体の左右を切り換え、伸びやかに腕を振る。
「ピッチング」となんら変わらないフォームから、白い糸をピンと張ったようなボールが、気持ちよいほどに伸びていく。50m、60m……それでも、そのままの力感で、反動も、助走の勢いも利用せずに、真っすぐな白い糸を引いていく。およそ70m……いや、レフト線からセンターの定位置付近ほどの距離だから、80mに届こうとしているのか。
並んで遠投を繰り返している投手だって、その地方ではその名の知れた剛腕なのだが、そちらのほうは、もう反動を使って、ボールの軌道に角度をつけて、やっと届かせている。 山下舜平大が投げる軌道は、ほとんど地面に平行なままだ。
20年以上前、神奈川の球場で見た松坂大輔(横浜高)の遠投にも驚いたが、真っ直ぐなボールの軌道は同じでも、松坂投手のほうが、もうちょっと力を入れて投げていたように思う。
とんでもない「遠投」。
山下舜平大の遠投には、なんだ、こりゃ!とびっくりもさせられたが、同時に、「このボールをみんなに見てほしい!」……そう思わせるほどの美しさと気品のようなものがあった。
シートバッティングのマウンドに上がって、打者5人を相手に、1安打3奪三振1四球。
実戦からしばらく遠ざかって、肩が軽すぎたのか、ボールが上ずってはいたが、本人は「投げ損じ」と見なしたその「高め」から、阪神・藤川球児のウイニングショットのような、加速するようなスピンと「生命力」が見てとれた。
それでも……。実戦のマウンドは、なんだか、私には「蛇足」のように感じられた。
あの「あり得ない遠投」。そのおよそ20球ほどのパフォーマンスだけで、十分にお腹いっぱい。
オーディションで大切なのは、「見られている意識」だ。自分の「見せ方」にも長けて、ただ投げるだけじゃない……人間的なセンスさえも感じさせてくれる未完の大器の「オーディション」だった。