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日本縦断の自転車ギネス記録は、
最高効率の走りと「神風」が生んだ。
text by
柳橋閑Kan Yanagibashi
photograph byKenichi Yamamoto
posted2020/08/29 19:05
風の抵抗も道路の凹凸も、2600km積み重なれば大きな差になる。繊細な競技なのだ。
ゴールが終わりじゃない。ギネス記録ならではの難しさ
──記録を更新できると確信したのはいつだったんですか。
フェリーに乗りこんだ瞬間ですね。5日間と1時間でフェリーに乗れて、北海道での残りの走行距離は約600km。これまでずっと400km前後走ってきたから、2日間で600kmなら間違いなく行けるだろうと思いました。
──ゴールした瞬間、どんなことを思いました?
解放感ですかね。安堵感というか。
──こみあげてくるものは。
あるかなと思ったけど、あんまりなかったです。
──レースで優勝するのとは違う感覚ですか。
う~ん、似ているような違うような……難しいですね。じつは、今回のチャレンジはゴールしたところで終わりじゃないんですよ。ギネスに走行ログと、写真や動画、第三者の証言など、間違いなくこのルートを走ったという証拠を提出して認めてもらわないといけないんです。
走りきるのも大変だけど、ギネスに認定されるための作業もハードルが高い。実際、走ったけれど認められなかったという人が、これまで何人もいるそうです。なので、厳密に言うと材料が揃っただけで、まだ記録は達成していないんです。それもあって、ゴールの瞬間、100%やりきったという気持ちにならなかったのかもしれないですね。
──なるほど。申請作業は残っているにしても、成し遂げたことは間違いなくて、しかも30時間もの大幅な記録更新。その数字についてはどう感じていますか。
1日以上なので、大幅な更新と言えると思います。ただ、数字自体は今後、破る人もいるだろうし、ブルベを中心にやっているサイクリストが、ルートは違うけど120時間程度で走ったという話もあります。だから、破られたら破られたで構いません。むしろ、今回の挑戦が注目を浴びたことで、他の人がチャレンジし始めて、こういう自転車の“遊び”が盛り上がっていけば本望です。
今後コロナが収束して、元の世界に戻っていったときも、こういうチャレンジをしたことで、僕自身の活動にも幅が出ると思うんです。本当にいいきっかけになりましたね。