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日本縦断の自転車ギネス記録は、
最高効率の走りと「神風」が生んだ。
posted2020/08/29 19:05
text by
柳橋閑Kan Yanagibashi
photograph by
Kenichi Yamamoto
日本縦断2600kmのギネス最速記録に挑戦した“最強のホビーレーサー”高岡亮寛さん。前半は発疹、食欲不振、睡眠不足、交通渋滞に悩まされ、3日目を終えた段階で予定よりも70kmビハインドという苦しい展開となった。
遅れを取り戻すべく、4日目は福井県越前市から新潟県胎内市まで、約443km(実走行時間16時間10分)のビッグライドを敢行。国道1号の東京~鈴鹿(三重県)間と同じ距離を1日で走ってしまったのだからすさまじい。
疲労困憊でホテルに到着したのは午前3時。だが、翌日も青森のフェリー乗り場まで400km走らなければならない。記録更新は絶望的に思われた。
そのとき神風が吹いた。
──4日目の夜、午前3時に着いたということは、ほとんど寝る時間がないですよね。
疲労が限界まで来ていたので、5日目のスタートを10時ぐらいにして、少しでも睡眠時間を確保することにしました。そのぶん北海道に渡るフェリーの時間を6日目の午前5時に遅らせることにしました。つまり、5日目は29時までにフェリー乗り場に着けばいいというスケジュールにしたんです。
──とはいえ、疲労度を考えると、厳しい状況であることに変わりはない。
でも、5時間ぐらい眠れて体も若干回復したし、時間をずらしたことで運よく集中豪雨も避けられたんですよ。おまけに神風も吹きました。
──神風?
日本海側を青森まで北上する間、強い南風がずっと吹き続けてくれたんです。気象条件的にこの時期は基本的に南風が吹くと予測して、南から北へ向かうルートを選んだんですが、それがドンピシャではまりました。
追い風を受けて、それまでの1.2~1.3倍のスピードが出るようになりました。連日400km走ってきたとは思えない快調さで、平地では時速35~40kmで巡航。おかげで青森には予想よりも早く、午前2時45分に到着できたんです。
──一般のサイクリストからすると、そのスピードで400km走るというのは想像がつきません。ものすごく効率的にペダリングをして、無理せずスピードを維持しているということなんでしょうか。
それはあると思いますね。今回はロードバイクにDHバー(ハンドルの真ん中に取り付けて肘を乗せることで、大幅に空気抵抗を減らせるパーツ)を付けて、エアロポジションで走っている時間が長かったんです。僕はそのポジションに自信があって、TTバイク(タイムトライアル用に空力を追求したバイク)なら、170~180ワットのパワーで漕いでも、時速37~38kmを出せますから。