野球善哉BACK NUMBER
敗れたエースは甲子園の意義を体現。
大分商・川瀬堅斗「人生につながる」
posted2020/08/10 15:55
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
KYODO
全国の舞台に来ない限り経験できないことがあるものだ。
第1試合に登場した大分商業のエース・川瀬堅斗は、初回、やや精彩を欠いた。
先頭を守備のミスで出塁を許すと1死後、3連続四死球で1点を献上。6番・渡壁幸祐に右翼適時打を浴びて計3失点。試合も1-3で負けた。
「初回の立ち上がり、初めての甲子園に負けてしまって、思うようにストライクが入らなかった。ベストピッチではなかったなと思います」
2回以降は粘りながらも初回の3点だけにとどめたのは見事だったといえるが、エースの口から出てきた言葉は悔しさばかりだった。
試合に負けたのだから当然だろう。ただ、川瀬の言葉を聞いていて感じたのは、今年の高校球児が失ったのは、こうした経験なのだろうと思った。
「無観客であるということは関係なかったです」
初めての舞台、緊張、全国レベルの強豪を相手にしてのマウンド。「相手は甲子園常連校で余裕を持って戦っているというのを感じました」という川瀬の言葉に集約されるだろう。
新型コロナウイルスの世界的な蔓延により春・夏の甲子園大会が中止。今年の高校球児たちが失ったのは、川瀬の言葉にあるように多くの経験だ。
全国の舞台で、自分の腕を試す機会がない。日本高野連の八田英二会長を筆頭として、春夏の甲子園の中止は「夢の剥奪」ばかりを口にする人が多かったが、交流大会の初日第1試合を終えて思ったのは、「甲子園という華やかさ」が大事なのではなく、高校生が腕を試す機会が失われたという事実である。
「無観客であるということは関係なかったですね。どの球場よりもすごい所だなというのは実感しました」