野ボール横丁BACK NUMBER
明徳義塾・馬淵監督の勝利への執念。
逆転サヨナラ“ベスト布陣とトンボ”。
posted2020/08/10 18:45
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
KYODO
教え子たちに監督はどんな人かと問うと、こう口をそろえる。勝利への執念がすごい、と。明徳義塾の監督、馬淵史郎のことである。
「交流試合」という試合の名称は、どこか平和的ですらあるが、この男にはまったく関係なかった。
7月8日、交流試合の組み合わせが決まるなり、馬淵は相手の鳥取城北の情報収集をすかさず開始していた。
「ビデオ見たら、ええチームやわ。明徳はがんがん打ってくるチームの方がやりやすいんやけど、振りがシャープ。知り合いの監督に『いいチームだから、なめたらあかんですよ』って言われたわ」
「甲子園の1勝にはカウントされるらしいからな」
高知の独自大会は3年生を優先的に使ったが、この日は2年生ショートの米崎薫暉(くんが)を復帰させ、ベストの布陣を組んだ。
「交流試合ゆうても、きちんと甲子園の1勝にはカウントされるらしいからな。明徳のためにも負けられん」
ともすれば闘争心を削ぎかねない無観客の静かな甲子園も、まったく気にしていなかった。
「ベンチの中に入って、試合に入ったら関係ないね。外の様子なんか見てる余裕ないもん」
いつもの夏と、今年の夏のもっとも大きな違い。それは勝っても負けても1試合のみという点だ。優勝を目指すというモチベーションがない。
だが、馬淵は言った。
「普段だとね、点差が開いたら、次の試合のためにピッチャーにここからチェンジアップは封印しろとか指示したりするんですよ。そんでもって、今年は、球数も気にしないといかんかったでしょう。でも、この試合で終わりと思うと、余計なことを考えなくていいので、余計に集中できましたね」