“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
Jを目指す高校生、大学生の就職活動。
明暗を分けた「貴重なアピールの場」。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/08/06 07:00
Jリーグのスカウトたちが見守る中、セレクションに参加した鹿屋体育大FW伊藤龍生(左)と東福岡高FW青木俊輔。
「悔し涙を流すとは思わなかった」
「小さい頃からプロサッカー選手になると決めて、ずっとサッカーが大好きで、米子北で鍛えられ、鹿屋(体育大)でもいろんな壁にぶち当たりながらも何とかしがみついてきました。でも、一輝や凌が活躍する中で、僕は周りから『性格が優しすぎる』と言われてきた。もっと激しく要求したり、ゴールへの執着心を表現しないといけないと思っていたのに、今日は表現できなかった。本当に後悔しています。悔し涙をここでも流すとは思わなかった。自分が本当に甘かったことを痛感しましたし、もっと死に物狂いにならないといけないと教えてもらいました」
コンディションに不安を抱えながらも、伊藤の持ち味であるオフ・ザ・ボールの動きの質、シュートまで持ち込む推進力とパワーは垣間見ることができた。だが、もっとできた。今回のトライアウトは「後悔」の念だけ残して終わってしまったのだ。
しかし、それこそがこのトライアウトに出場した大きな意義でもある。
「今日来てくださったスカウトの方々のほとんどが『伊藤はダメだった』という評価をしたと思います。でも、そこから少しでも成長できれば、『あいつ、あのトライアウトをきっかけに変わったね』と思わせることができるかもしれない。だからこそ、もっとゴールを貪欲に目指したいし、余計な優しさを捨てて、全身全霊でやっていきたい」
プロに進めば、さらに厳しい世界が待ち受けている。要求できない選手は当然、すぐに埋もれていく。「なぜ俺を見てくれないんだ」ではなく「俺を見ろ」。パスが出るまで要求しながら動き続ければ、必ずチャンスはやってくる。ストライカーはその少ないチャンスを生かさないと評価と信頼を掴めない。このトライアウトで改めてその意味を深く理解したことだろう。
溌剌としたプレーが印象的だった青木。
「高校生の試合を見て、こっちの方が気持ちも前面に出ているし、スカウトの人も興味深く見ていると思います。本当に甘さを感じました」
唇を噛み締める伊藤の視線の先では、高校生の部がスタートしていた。いまいち試合に入れていない選手が多かった大学生とは違い、ピッチ内では要求の声が飛び交い、球際の激しい白熱した試合が展開された。
その中で一際、気合いに満ち溢れていた選手がいた。丸坊主頭の東福岡高3年・FW青木俊輔だ。
青木は、すでに関東の強豪大学から複数のオファーをもらっていた。だが、どうしても今回のセレクションに参加したかったのだという。
「僕の夢は10代でプロになって、23、24歳で海外に行きたい。その目標から考えると高卒でプロになるという想いが強いんです」
全国屈指の強豪でレギュラーを獲得するも、未だプロのオファーはない。大学に進学することも悪い選択ではないが、高卒でプロ入りすることへの想いは強い。
「(トライアウトの参加は)めちゃくちゃ悩みました。コロナの影響もあって、プロの練習に参加できない分、内定をもらえるチャンスの時期も遅くなる。となると、大学の話がなくなり、最悪の場合は何もないまま高校生活が終わってしまうリスクもあります。でも、やっぱり僕の中ではどうしても『10代でプロになる』という思いが強くあって、それを達成するために東福岡に来た。実際に中村拓海(FC東京)さんや荒木遼太郎(鹿島アントラーズ)さんの姿を見て、『絶対に自分も』と思っていたので、どうしても諦めたくなかった」