“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
Jを目指す高校生、大学生の就職活動。
明暗を分けた「貴重なアピールの場」。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/08/06 07:00
Jリーグのスカウトたちが見守る中、セレクションに参加した鹿屋体育大FW伊藤龍生(左)と東福岡高FW青木俊輔。
「覇気の無さ」を感じた伊藤のプレー。
トライアウト当日、彼の右腿にはガッチリとテーピングが巻かれていた。
1本目、伊藤は不慣れな3-4-1-2の右ウィングバックでプレーをしたこともあり、ボールを触る機会が少なかった。だが、本来のFWのポジションで出場した3本目は、持ち前のオフ・ザ・ボールの動きで相手DFと駆け引きをしながらスペースに何度も顔を出して相手マークに歪みをもたらすと、味方がインターセプトした瞬間には鋭い動きで抜け出し、シュート。ゴールこそ奪えなかったが、この20分だけで3本ものシュートを放った。
しかし、同じくFWで出場した4本目は、伊藤のもとにボールが集まらなくなった。前線で動き直しをしながら、相手のギャップを突いてボールを引き出そうとするもなかなか思い通りに進まない。徐々にうつむく姿が多くなり、存在感を発揮できないまま最後の20分が過ぎていった。
「3本目は本来のポジションだったし、(鹿屋体育大の)チームメイトも多かったので、いいタイミングでパスが来てシュートまで持ち込めた。でも、4本目は他大学の選手が多く、なかなか連携面が合わなかった。パスがほしいタイミングで来なかったり、シュートまで持ち込めるスペースに動いても見てもらえなかったりと、プレーしながら難しさを感じていました」
伊藤が話すように“急造チーム”のなかで持ち味を出すことが求められるトライアウト形式において、連携面は重要となる。初めてプレーする選手たちと意思疎通を図ることは簡単ではない。しかし、筆者が伊藤に対して感じたのは「覇気の無さ」だった。
スカウトが見る、ピッチでの振る舞い。
彼らはあくまで見てもらう立場にある。スタンドにはJリーグを含めたプロ15クラブ以上のスカウトに加え、19もの大学のスカウトや監督が視察に訪れていた。そこで求められるのはチームの完成度よりも、選手ひとりひとりが何をできるか。また、ピッチ上でどう振る舞っているかが重要な選考基準となる。
闘争心があるのか。キャプテンシーがあるのか。自己主張ができるのか。技術だけにとどまらず、そういった発信力、行動力はスカウト陣にとって大きな評価につながる。うまくいかない難しい環境でどんなプレーをするか、そこに大きな差が生まれるのだ。
パスが来なければ味方に要求すればいい。自分のプレーを味方に伝えてコミュニケーションを図ればいい。伊藤はそれができていなかった。
トライアウト後、彼は涙を流しながらこう言葉を振り絞った。