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「五輪一年延期」で関係者が感じたこと。
ホッケー・さくらジャパンが描く“リスタート”。 

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別府響(文藝春秋)

別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu

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photograph byHideki Sugiyama

posted2020/08/17 11:00

「五輪一年延期」で関係者が感じたこと。ホッケー・さくらジャパンが描く“リスタート”。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

昨年7月には世界ランク上位の国とテストマッチで互角の戦いを見せるなど、躍進のきざしを見せていた。

「改革」が遅れてしまうことへの懸念。

 むしろ懸念したのが、今回の事態を受けて、考えていたホッケー界の「改革」が遅れてしまうことだった。

 坂本は東京五輪だけでなく、そこを皮切りに2030年を目標に日本でのホッケーワールドカップの開催や、それに向けた協会全体での理念やビジョンの共有をはじめとする改革を盛り込んだ「Japan Hockey Road to 2030」の策定を進めていた。だからこそ、コロナ禍の影響を受けて「この状況だからプロジェクトが遅れても仕方ない」という空気になってはいけないと考えたという。

 こんな状況だからこそ、むしろこれまで以上にスピード感を持って物事に取り組まないと行けない。10年後に向けた「ホッケーの新時代を創る」というロードマップの作成も急ぐようにした。

「バックオフィスの人間にとっては、地方や海外の関係者とリモートで会議が進めやすくなったり、メリットもあった。だからむしろ気にかかったのは、やっぱり自分たちより選手たちのことですよね」

 選手の中には東京五輪を花道に、引退を考えていた選手もいた。

 そういったベテラン選手にとって「1年」という時間が決して軽いものではないことは坂本にも痛いほどわかっていた。五輪という大舞台にピーキングを行ってきた選手たちにとっては、あらゆる面で影響が大きい出来事だった。

「なんとかできることはしてあげたいと思います。こんな状況ではありますが、どうにか本番の会場で1回でも多くトレーニングをさせてあげたいですし、食事・宿などの環境も少しでも快適なものにしてあげたい。そういう部分で、コロナ禍でもやれる準備をしっかりと進めていきたいです。いまはそれが一番の仕事だと思っています」

故障明けだったキャプテン内藤の本心。

 実は五輪延期という決断に「やっぱり」という感想を持ったのは、選手も同様だった。

 ホッケー女子日本代表「さくらジャパン」のキャプテンを務める内藤夏紀(ソニー)は、代表合宿中にその一報を受けた。

「急な話ではありましたけど、その前から延期の可能性の話は耳にしていたので、驚きはそれほどなかったです。合宿中だったので、監督とそれぞれの選手で個別に面談をする時間を作って、話をしました。私は監督から、『ナツキにとってはプラスになる1年間だと思う』と言われました」

 実は内藤自身はこの時、痛めていたひざの故障からの復帰途中だった。

 ようやく本格的に動けるようになったところで、まだまだ練習試合も経験できていないような状態。そんな状況もあり、延期というニュースを聞いて、むしろ個人としてはほっとした部分もあったという。

「チームメイトの中にはモチベーションのもっていき方で悩む選手ももちろんいました。ただ、監督も言うように自分にとっては戦える体作りができる時間が増えるという意味で、『プラスの方が大きいかな』と思えました。当時はなかなか思うようにトレーニングやプレーができていないなかで、メンバー選考もあり、気持ち面で追い詰められていた部分もあったので……」

【次ページ】 後ろばかり振り返っても何も始まらない。

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