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自粛で練習が減ったら球速アップ?
この夏、高校野球で起きている事。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/07/26 09:00
近年の甲子園は、膨大な練習と膨大な食事を吸収できた"ガタイ”がいい選手が多い。しかし、もっと無理なく成長することができるとしたら……。
グラウンドだけが練習ではない。
まだ全国の統計があるわけではないが、近年は「多すぎる練習量が子供たちの成長を阻害しているのではないか」という説も広がり始めている。
高校野球は、試合の日程も練習も過密だ。
朝練があり、授業を受けた後もすぐに練習が始まる。そこから夕食を挟んで夜遅くまで練習が続く。連戦連投や深夜までの練習が「美談」とされる雰囲気は今もある。明らかに練習過多なのだが、その状況でも体を大きくするために「食トレーニング」と称して多くの食事を詰め込むことも一般的になっている。
ところが自粛期間になると、選手たちの体は勝手に大きくなっている。興味深い話ではないか。
適度なトレーニングと、動画でプレーイメージを構築する習慣は、自粛期間に起きたポジティブな要素だ。グラウンドに出る時間だけが練習なのではなく、時間にゆとりを持たせる必要もあるのだ。
登板過多も練習過多もない夏。
夏の甲子園大会が中止になったことの絶望感は想像するに余りある。
とりわけ甲子園に出場するために野球留学をした選手や、学力的には進学校へ進む選択肢がありながら野球に専念した選手もいる。その中での中止決定はどれほど辛いことだろうか。
しかし大会が開催されなかったことで、故障の原因になる登板過多は大きく減ったし、練習時間の制限が高校生の健全な成長を引き起こしたことは、高校野球界にとって無視できないメッセージである。
「最後の夏」を失った選手たちのために、各自治体の高野連はプレイヤーズファーストの精神で動いている。緩やかな日程で開催されている独自大会は、今後のモデルケースになっていくだろう。