猛牛のささやきBACK NUMBER
オリックス山本由伸に備わる“基準”。
満足しないエースはどこまで行く?
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2020/07/20 12:00
打線の援護もなく、今季初黒星を喫したオリックス山本由伸。柳田らに痛打される場面もあったが、次回の登板に期待を抱かせる投球だった。
コーチも観客も驚かせたルーキー時代。
プロ入り当初から、ただ者ではない片鱗を見せていた。2017年1月、まだ神戸にあった青濤館で、初めてブルペン入りしたドラフト4位の高卒ルーキーを見たコーチ陣は、「いいボール投げるね!」、「面構えもいい」と色めき立った。
完成したばかりのオセアンバファローズスタジアム舞洲では、力感を感じさせないフォームから、150キロ台のストレートを連発し、観客をどよめかせた。
1年目はウエスタン・リーグで33回2/3を投げて失点1、防御率0.27、与四球わずか2という驚異的な数字を残し、8月に一軍に昇格。8月20日の千葉ロッテ戦で初登板を果たし、5回1失点と好投。2度目の先発となった8月31日のロッテ戦でプロ初勝利を挙げた。高卒新人の勝利は、オリックスでは23年ぶりのことだった。
とはいえ、4年目で球界を代表する投手になれたのは、ある程度の結果で満足しなかったから。そして変わることを恐れなかったからだ。
高卒1年目の選手が一軍で勝利を挙げれば、普通は上出来と言えるだろう。しかし山本は、満足感よりも危機感の方が大きかった。
1年目は5試合に先発したが、5回まで投げるのが精一杯。登板翌日は、張りと痛みでキャッチボールもできない状態だった。
「『これじゃダメだ』って思いました。1試合投げたら痛くなるなんて、いいわけない。鍛えたらどうにかなるという問題じゃなく、体の使い方が間違ってるんだなと思いました」
体の使い方を根本から見直す決意をした山本は、その年のオフ、筒香嘉智(レイズ)などが行なっていた自主トレに参加し、新たな考え方や練習方法を学んだ。体の強さや連動性、柔軟性を高め、「力を抜いた中で力を出せる」という感覚を目指すようになった。
スライダーを封印して得た武器。
また、肘への負担を減らすため、当時もっとも信頼していたスライダーを封印した。その理由を、こう語っていた。
「スライダーはやっぱり肘への負担が大きい。自分はまだ先輩たちに比べると体が子供というか、仕上がっていない。だからできるだけ負担が少ない球を投げたいなと思って。スライダーは、いずれ体がしっかりできた時には、投げて自分のピッチングを広げたいと思うんですけど、今はもうちょっと体をしっかり作りたいと思っています」
封印したスライダーの代わりに、1年目のオフに高速カットボールを習得し、2年目以降、それは大きな武器になった。