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藤井聡太の完璧さにマジックはない。
若き羽生善治の“伝説”を思い出して。
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph byShigeru Tanaka/Kyodo News
posted2020/07/08 19:00
羽生善治(左)と藤井聡太。2人の棋士に触れた人々が持つ感情は、尊敬を超えて畏怖の境地ともいえる。
羽生世代の中で19歳でのタイトル。
羽生の初タイトルは、19歳2カ月で初代竜王の島朗をフルセットで破って奪った竜王位。彼にしては少し時間がかかったのは、いわゆる羽生世代と呼ばれる佐藤康光、森内俊之(18世名人)、村山聖、先崎学らの壁が厚かったから。そしてこの世代からはのちに郷田真隆(タイトル6期)、丸山忠久(名人2期)、藤井猛(竜王3期)といった名棋士も生まれている。
思えば凄い時代の奨励会を見てきたわけだが、その中でも羽生はピカイチの存在。その指から自然にこぼれ出てくるような、本筋をとらえた指し手の連なりは、まさに天才によるそれにしか見えなかった。
藤井聡太の奨励会時代を知らないが、新四段としてデビューするや、トップ棋士たちとのつば競り合いを次々と経験して、元々高いポテンシャルが、対戦相手の強さによってさらに磨かれてきたことがわかる。
藤井聡太に勝ち越している棋士は?
しかも、多くの場合は勝ちながら強くなるのだから、相手としてはたまらない。
羽生に3-0、渡辺明にも3-0、永瀬拓矢には2-0、木村一基には1-0。久保利明に2-3、佐々木大地に1ー2、同期の大橋貴洸にも2-3というのが気になる星だが、勝率8割超えでも、負け越す相手が少数はいるものなのだ。
現状で藤井聡太の大きな壁となっているのが豊島将之竜王名人だ。第一人者として、藤井相手に4-0と貫禄を示しているのはさすがの一語。だからこそ、竜王戦の挑戦者決定トーナメントの藤井の勝ち上がりが注目を集めることだろう。
タイトル戦であっても、トップ棋士同士の指し手がAIによる評価値によって、一手ごとに冷酷なほどに明らかにされるのが現代の将棋中継だ。
棋力がなければ、形勢さえも追えずに退屈するばかりだった中継が、機械が判定する形勢メーターを見れば一目瞭然。野球中継のスコアボード以上にわかりやすくなっている。