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歌い継がれる『栄冠は君に輝く』
古関裕而が甲子園で感じたこと。
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byKyodo News
posted2020/06/24 07:00
古関裕而の手により誕生した『栄冠は君に輝く』は、作曲から70年以上が経った今も甲子園に響き続けている。(2019年開会式写真)
カラオケで唯一歌えるのはあの曲。
意外だが、当時、チームのマネージャーとして行進に加わった古川昌司さんには、開会式で大会歌を聴いたという記憶がすっぽりと抜け落ちている。
「たしかに曲は流れたんでしょうけど、憶えてないですね。その頃はまだCDもテープレコーダーもないでしょう。何時間もかけて急行で甲子園まで行って、宿舎には味噌や米をこっちから送った時代。商業のグラウンドなんてまだ麦畑でしたから。甲子園の外野に広がる芝生を見て、感激したのは憶えてます」
古関メロディーが滔々と流れる記念館のサロンで、古川さんが思い出の品々を見せてくれた。昭和26年8月の刻印が押してある阪神電鉄の切符、23番と数字の書かれた抽選札、そして「栄冠は君に輝く」の楽譜が刻まれた大会パンフレット……。2回戦から登場した福島商は、初戦で優勝候補の高松一高と対戦。エースが相手打線を3安打に抑えながらも、一本の痛打に涙を流した。
「怪童中西太のランニングホームラン。あの2点で負けたんです。待望の勝利は挙げられなかったけど、どれもこれもみな良い思い出。『栄冠は君に輝く』も、その後は甲子園に応援に行くたびに歌ってますからね。私がカラオケで唯一歌えるのはあの曲なんです(笑)」
ずっと大切に歌い継がれている。
古川さんはその後、40年以上にわたり高校野球地方大会の審判を務めあげた。その間も、それからも、甲子園ではあの曲が先輩から後輩へと大切に歌い継がれている。
めぐり、めぐって、再びの暑い夏。球児の汗と涙がしみこんだグラウンドで、はたして今年はどのチームが栄冠に輝くだろう。
(Sports Graphic Number 734号 『[古関裕而生誕100年]歌い継がれる「栄冠は君に輝く」』より)