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伊藤美誠と中国選手の本当の距離は?
松崎コーチが語る転機と金メダル。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byITTF
posted2020/06/07 11:35
松崎太佑コーチと伊藤美誠。日本卓球界の悲願である中国超えへの期待が2人に寄せられている。
「待つことは美誠にとってすごく大事」
――強化の方針も変わったのですか。
「変えましたね。リオ五輪までの美誠はこの選手には勝てるけど、このタイプには負けてしまうとか、相性がはっきりしていた。でも、東京五輪で金メダルを獲得するためには誰にでも勝てないといけない。そのためには自分の実力そのものを上げる必要があるので、卓球の基礎的な力を上げていくしかない。そこは美誠と相談して練習の方向性を決めました。少し時間がかかりましたけど、結果的に良かったです」
――コーチの仕事として待って、考えさせることも大事ですね。
「美誠は自分の考えをしっかりと持っているので、周囲が強くいってもそれをすんなり受け入れるタイプじゃないんです。自分が経験し、納得しないと練習や試合に入っていけないタイプなので、待つことは美誠にとってすごく大事なことだと思っています」
リオ五輪の頃、試合前は対戦相手の情報を綿密に分析し、対策練習に集中していた。伊藤に相手の傾向と弱点を多くの時間をかけて伝え、試合に立たせていた。
――試合前は今も対策練習が中心ですか。
「今、対策練習はほとんどしていないですね。大会前もとにかく自分の実力を上げる基本的な練習ばかりです。対策を考えるのは現地に入って1回戦の相手が決まってからで、2回戦以降の選手は試合前の練習の時だけですね」
松崎コーチは、伊藤を指導するようになってから相手選手を研究する対策ノートをつけてきた。リオ五輪が終わるころには80冊以上にもなった。
――今もノートをつけているのですか。
「今も書いています。ただ、ノートに書くのは試合前の対策と試合中の気になったところ、そして試合後の復習ですね。美誠のコンディションとか調子について、例えば調子が悪いところが出来てきた時、どういう練習を、どんな意識でしたらいい方向に向かったとか、そういうことはタブレット(パソコン)に書いています。今は、そういうページが増えて、逆に対策のページは減りました」
――動画を見て分析するのはリオ五輪の頃と変わらないですか?
「動画での分析は今もしていますが、前ほどじゃないですね。最近は素人の練習や卓球のユ-チューバ―の動画を見ています(笑)。素人の動画はけっこう練習のヒントになったりするんですよ。独特のスタイルでサーブしたり、打ち返したりするんですけど、基本からズレているから相手がやりづらくなるんです。
普通の練習だけだと頭が固くなるので、そういう突拍子もないことをやるのも大事。もともと美誠の卓球は基礎と面白い卓球のミックスですからね。たまに美誠に動画を見せると『おもしろい』と興味を持つので、そうして発想力を広げていくことも大事かなと思っています」