甲子園の風BACK NUMBER
島袋洋奨、母校・興南で新たな人生。
自分の経験を子供たちのヒントに。
text by
栗田シメイShimei Kurita
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/06/05 19:00
この春、母校・興南高校に“復帰”した島袋洋奨。将来は教員になることを視野に入れながら、自らの経験を次世代へ繋いでいく。
興南の開き直りが生んだ逆転劇。
2回終了時点でのスコアは5対0。チームにも諦めムードが漂った。この時ベンチ内では、主将の我如古がこんなことを切り出していた。
「ベスト4まできて、相手は報徳(学園)。しょうがないよね」
島袋や他のナインもこの時、「俺たちもここまで良くやった」と同調したという。だが、この半ば諦めともとれる開き直りが逆転劇を生む。
ADVERTISEMENT
興南は徐々にペースを引き戻し5回に3点を返すと、7回にはこの試合初のリードを奪う。
「最初はしょうがない、と思っていたんですが、気がつけば途中から『打ってくれ』とベンチに戻る度に感情が変わっていった。あのチームは良い意味でいい加減な部分があった。だから追い詰められても思い詰めすぎず、そういう姿勢だからこそ逆転できたのかもしれません」
島袋も3回以降は得点を許さず、投球内容も一変した。終盤の三者三振を含む12奪三振の力投で、接戦をものにした。奇跡の逆転劇を経て、決勝の前にはいくばくかの心の余裕も生まれたという。チーム発足から最もまとまりをみせ、神経も研ぎ澄まされていた。
夏の優勝旗は、指導者への道に。
決勝の東海大相模戦では中盤に大量点を奪い、13対1の大差で史上6校目の春夏連覇を果たした。それは同時に、沖縄に悲願の夏初優勝をもたらした瞬間でもあった。
「自分たちのやってきたことに自信はあった。それでも夏も沖縄に優勝旗を、という意識を持つ余裕は全くなかった。空港には4500人の方が迎えてくれて、報告会も規制で人が入れないくらいのお祭り騒ぎ。改めて沖縄の野球熱を知り、県民が優勝を待ち望んでいたんだな、と実感しました。俺たちとんでもないことやっちゃったな、と(笑)。あの時の光景はずっと忘れないでしょうし、日常で意識してなくてもずっと心の片隅に残っていたのかもしれません。あの夏の優勝は人生の分岐点であり、漠然と考えていた指導者への道にも繋がった」