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イタリアでサッカーは特別なのか?
コロナ禍で思い出すサッキの名言。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/05/29 11:30
トレーニング場に車で現れたクリスティアーノ・ロナウド。イタリアでサッカーは特別なのか。その議論は続きそうだ。
「サッカーは一大産業である」
リーグ戦の再開へ向けて突き進むセリエAからは「サッカーはこの国における一大産業」という、経済活動を強調する声が聞こえてくる。
産業であるからには、国内で50億ユーロ規模に及ぶと目されている経済効果への被害は最小限に食い止められなければならない。
「私はサッカーの墓堀り人にはならん」
FIGC(伊サッカー連盟)のガブリエレ・グラビーナ会長には、サッカー界全体の稼ぎを確保して下位カテゴリーやアマクラブを破産から守る、という大義名分がある。セリエAリーグ機構のパオロ・ダルピーノ会長には、『SKYイタリア』や『DAZN』の放映権料減額を最小限に食い止めるビジネス上の責務がある。
「スポーツ界で足並み揃えて活動を止めるかシーズン再開を強行するか、2つに1つだ。私の口からシーズン中止を言うことは絶対ない」
グラビーナ会長は4月中旬の段階でセリエAを止めるなら政府の判断で、政府の責任でやってもらう、と啖呵を切った。そのうえで連盟とセリエAリーグ機構はリーグ戦再開に難色を示す政府を納得させるため、リーグ戦再開実現に向けて奔走した。
政府の諮問機関である科学技術委員会の指摘を受けながら、完成させた36ページに及ぶ「セリエA再開についてのガイドライン」は5月25日に内閣宛に送付されて、政府に再開許可の最終判断を仰ぐ段階に至っている。
大臣も「再開できない理由はない」。
スポーツ省のビンチェンツォ・スパダフォラ大臣は、「サッカー界の領袖たちとの会合が予定されている5月28日にセリエA再開の可否、さらに再開する場合は時期についても発表する」と明らかにした。
「我が国にとってサッカーは何百万人もの人間を熱くさせる一大産業だ。行動制限措置が解除され、国と国民の活動が再び動き始めた今、スポーツ界も活動を再開できない理由はない」
感染者数と死者数が収まってきたためか、これまで再開にノーと言い続けて来た大臣の表情もようやく和らいできた。
新型コロナウイルスは個人の行動の自由を国家が制限するという、西洋社会の価値観を根底から否定する異常事態に追い込んだ。
だから、そんな非常時にサッカーなんてやっている場合かという理屈もわかるし、一方イタリア人が考える人間らしさの象徴としてスポーツへの希求が高まるのも理解できる。