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職人気質すぎる部活、体育に一石!
IMG敏腕トレーナーの練習法とは。
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph byGetty Images
posted2020/05/11 19:00
別競技を取り入れるクロストレーニング。それによってアスリートとしての全般的な身体能力を上げていくという発想だ。
「ムーブメント」に集まった注目。
「僕たちの仕事は、パフォーマンスの向上と、スポーツ障害防止……つまりケガの予防です。“ストレングス”は筋力アップのトレーニング。アメフトのような出力としての筋力や、テニスのようなスピード系などが入ります。“コンディショニング”は、日本語だと『調整』という風に捉えられがちですが、アメリカだと心肺機能の向上です。 バイクを漕いだり、インターバル走も含む中長距離走、プールでのトレーニングなどがこれに相当します。
その基本の2つに加え、この15年くらいで注目されるようになったのが、ムーブメントです。'70年代頃は、トレーニングと言えば大きい筋力をつけるという感じでしたが、最近多く求められるのが、効率の良い身体の動かし方の体得です。動き始めや方向転換の際に大きな筋肉から動かすというような、縦横の動きや切り返し、瞬発力など、機能の向上が叫ばれています。
機能向上とスポーツ障害予防は表裏。テニスのサーブや野球のピッチングもそうですが、誰しも利き腕/利き足があるので軸の形は常に同じであり、その反対側の手足の遠心力を使ってパワーを放出する。そうすると、股関節や肩関節、肩甲骨の使い方は上手になるのですが、上達すればするほど歪みが生じケガの原因にもなります。その身体の癖を取るためにもストレングス・トレーニングは必要ですし、競技に特化した動きでは養えない筋力や回旋などをトレーニングで補えば、効率よくパワーも出せるし故障も防げるという理論です」
常に同じではマンネリ化してしまう。
そのような歴史的背景と役割を自覚した上で、現在IMGアカデミーで活躍する中村は、他競技との交流……すなわち、クロストレーニングを推奨している。
「競技をまたいだ合同練習やトレーニングをトレーナー間でも話し合いながら選手たちに勧めています。それは肉体だけでなく、マインドを刺激するうえでも効果があるからです。飽きないようにすることは、上達のためにとても大切。常に同じ環境、同じ人間といるとマンネリ化してしまう。
その鈍化した感覚に刺激を入れる意味でも、他のスポーツを通して新しい体の動き方を感じることは重要だし、それがアスリートの喜びでもあると思います。また、他のアスリートと接することで『こんなことができるんだ』と目からも刺激が入り、メンタルバリア(思い込み)を破る効果も期待できます」