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職人気質すぎる部活、体育に一石!
IMG敏腕トレーナーの練習法とは。
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph byGetty Images
posted2020/05/11 19:00
別競技を取り入れるクロストレーニング。それによってアスリートとしての全般的な身体能力を上げていくという発想だ。
14歳の錦織はサッカーが上手かった。
だからこそ中村は、現在指導にあたっているデニス・シャポバロフ(カナダ)にバスケットボールをさせたり、昨年のウィンブルドンJr.優勝者の望月慎太郎には野球をさせているという。
さらに指導者の視座から見た時には、クロストレーニングは、選手個々の能力や特性を知るための格好の場でもあるようだ。
例えば中村には、14歳の錦織圭を見た時の鮮烈な驚きの記憶がある。
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「圭にサッカーをさせた時、彼の視野の広さに驚きました。5対5など複数のプレーヤーがいるフィールドに選手を入れると、物の捉え方や脳の使い方が見える。ボールを一途に追う選手もいるし、ゴールを目指すためにどう動けば良いかを考えたり、他の選手との距離感を取る選手もいる。圭はフィールド全体を見て、とても良いポジショニングをしていた。点を取ることを考えながら動いているのが分かるので、彼の動きを見るのは楽しかったですね」
クロストレーニングは、アスリートの能力を高め可能性を押し広げる。それは同時に指導者にとっても、新たに得られる刺激であるようだ。
他の指導者と連携する重要性。
その上で中村が自戒的に口にするのは、選手にとって何が一番大切かを、他の指導者たちと連携を取りながら見つけていくことの重要性だ。
「今は1人のアスリートに対し、競技のコーチがいて、ストレングスコーチにアスレティックトレーナー、さらに栄養士もついている。それら全員がチームとして、選手をどう導いていくかのビジョンを共有しなくてはいけません。僕の役目はパフォーマンスの向上とケガの防止ですが、他の分野のスペシャリストが集まるチームの中で、自分の立ち位置を理解して活動することが大切です。
皆がアスリートの強化という1つの目的のために集まってますが、バックグラウンドはそれぞれ異なる。そこを受け入れる懐の深さも必要だし、コミュニケーションを取りながら、一緒に仕事をする仲間の知識を得ていくことも大切です」
選手を導く側も、他分野と交流しながら知識を与え合うこと――すなわち、ある種のクロストレーニングをすること――で、互いの成長を促していける。
未知の刺激が眠っていた感性を賦活し、新たなステージへの扉を開くのは、アスリートに限ったことではないだろう。
その先で中村が目指すのは、アメリカ的フロンティア精神と日本の職人気質を交錯させ、豊かで多様性に満ちた独自のスポーツ文化を築き上げていくことだ。