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職人気質すぎる部活、体育に一石!
IMG敏腕トレーナーの練習法とは。
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph byGetty Images
posted2020/05/11 19:00
別競技を取り入れるクロストレーニング。それによってアスリートとしての全般的な身体能力を上げていくという発想だ。
シーズン制がなく1つの道を極めがち。
そう考えた時にまず明確なのは、日本のスポーツ教育現場には、シーズン制がないことだった。
さらには、「1つの道を極める」という日本人のメンタリティや文化的背景が、スポーツ界にもあまねく浸透してるのではないかと思い至る。それはもちろん、悪いことではない。現に日本のアスリートの技術レベルは、どの競技においても高く評価されている。
ただそのような職人気質が、少年・少女の可能性を狭めているのではないかとの疑念も湧いた。その仮説は、中村自身が野球少年として過ごした実体験にも根ざしたものだ。
「小学校低学年の時に、野球かサッカーかの選択を迫られ、以降ずっと野球ばかりやってきました。週末は野球漬けで、試合やノック以外の練習といえば、ひたすら走る。そうして中学に上がった頃には、50~60名いた野球少年たちの大半が燃え尽きてしまいました。
僕も野球に疲れて他のスポーツをやりたいと思った時、姉もやっていたし、個人競技にも興味があったのでテニスを始めたんです」
渡米して出会った名トレーナー。
12歳という比較的遅い年齢でラケットを握った中村は、先行するライバルたちとの差を埋めるべく、テニス雑誌や書籍を読み漁った。コート上の練習だけでなく、オフコートのトレーニングでフィジカルや、メンタルをも鍛えられると知ったのもこの頃のこと。マルチナ・ナブラチロワの著書を読み、食事を変えることでテニスが強くなるという事実にも衝撃を受けた。
かくして、スポーツの世界の多角的な深みにのめり込んだ中村は、高校卒業と同時に渡米。留学先のホップマン・テニスアカデミーで恩師とも言える名トレーナー、パット・エチェベリと出会い、自らもその道を志すようになった。
アメリカで1970年代頃に隆盛となった“ストレングス&コンディショニング”という概念は、かのスポーツ大国でも、競技選択の年少化が進む中で生まれたという。
前述したように、特定の動きを過剰に繰り返すことは身体に歪みを生み、それが故障の原因にもなる。その歪みを、かつては複数の競技をまんべんなくプレーすることで自然と矯正できたが、スポーツのレベルが上がりアスリートの先鋭化が進む現在では、それも困難になってきた。
そこで誕生した専門職が、“ストレングス&コンディショニングコーチ”である。