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ブンデスで連鎖した横断幕問題。
その訴えは信念か、個人の中傷か。 

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島崎英純

島崎英純Hidezumi Shimazaki

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photograph byGetty Images

posted2020/03/10 11:50

ブンデスで連鎖した横断幕問題。その訴えは信念か、個人の中傷か。<Number Web> photograph by Getty Images

ドイツサッカーで横断幕が連鎖的に問題化した。本来はサッカーそのものを盛り上げる舞台装置であるはずだ。

今回の振る舞いに関しては……。

 驚きなのは、このサポーターの行いをクラブ側が容認して協力体制を築いたことです。

 クラブサイドはゴール裏の立ち見チケットを持つサポーターに対して無償で他エリアへのチケットを提供し、試合開始前は音楽や選手紹介などの各種イベントも取り止めました。つまり、クラブとサポーターが共闘してUEFAに対して抗議の意を示したのです。

 日本のJリーグのサポーターがこのような抗議活動を展開した際、おそらくJリーグのクラブは静観、もしくは応援形式の制限を設けたのではないでしょうか。つまり、ドイツの文化では明確な主張は是であるという観念があるのです。

 しかし、今回の各サポーターのホップ氏に対する振る舞いには道理が感じられません。多額の資金を投入してクラブ強化を進める手法への嫌悪感、主義主張が変容するDFBへの不信感など、サポーター側の考えに理解を示せる点はあるものの、それを特定個人への攻撃という形で表出させる限り、その主張を万人に認めてもらうことはできません。

 いくら「正当だ!」と言い張っても、他者を尊重せず誹謗中傷する者の道理は通らないと、僕は強く思います。

主張が社会を照らすこともある。

 もちろん、サポーターの主張が一般社会に明るい火を灯すこともあります。

 2月19日の夜、フランクフルト近郊のハーナウで、人種差別者によるシーシャバー(水タバコ専門店)への銃撃事件が起きて9人の方が亡くなりました。

 その翌日に開催されたELラウンド16ファーストレグ、フランクフルトvs.ザルツブルク戦では、故人の冥福を祈る1分間の黙祷後に、フランクフルトサポーターが「Nazis raus!(ナチスよ、去れ!)」というコールを連呼しました。その連帯の姿勢は大きなうねりとなり、人々の心に響くと思うのです。

 3月4日のDFBポカール準々決勝、フランクフルトは2-0でブレーメンを下して準決勝進出を決めました。その翌日玄関を開けると、いつものように大家さんがメッセージ付きの新聞の切り抜きを置いてくれていました。

「今日も1日、良い日を過ごしてね」

 今はインターネットなどで試合の詳細を得られますし、何より自分は試合会場にも足を運んでいるので、これまでは「わざわざ新聞をいただかなくても、分かっておりますよ」と思っていました。

【次ページ】 質実剛健の中に隠された温かさ。

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