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ブンデスで連鎖した横断幕問題。
その訴えは信念か、個人の中傷か。 

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島崎英純

島崎英純Hidezumi Shimazaki

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posted2020/03/10 11:50

ブンデスで連鎖した横断幕問題。その訴えは信念か、個人の中傷か。<Number Web> photograph by Getty Images

ドイツサッカーで横断幕が連鎖的に問題化した。本来はサッカーそのものを盛り上げる舞台装置であるはずだ。

きっかけはドルトムントとの“敵対”。

 ホップ氏はクラブへの協力を惜しまず、2009年には約6000万ユーロを提供して3万150人収容のラインネッカー・アレナ(現プレゼロ・アレナ)を建設しました。

 ホッフェンハイムは、ドイツ南部のジンスハイムという人口3万5000人ほどの小さな街にある田舎の村ですが、その土地に広がる平原の真ん中に近代的なスタジアムがデンと立つ姿には独特の風情があります。

 ホッフェンハイムの発展に多大な尽力を果たしてきたホップ氏に対して、バイエルンのサポーターは、なぜ侮辱的な横断幕を掲げたのでしょう? それには非常に複雑な問題が絡み合っています。

 事の発端は、ドルトムントのサポーターとホップ氏との“敵対関係”にあります。

 ドイツは長い歴史のなかで成熟したサッカー文化を形成してきましたが、その根底には地域とサッカークラブとの連帯があります。サッカークラブはその土地の象徴的存在で、そこに企業などが参画して営利的な目的を見出してはならない。これがドイツのサッカーファン、サポーターに共通した思いです。

 その理念に沿ってドイツサッカー連盟(DFB)も企業をサッカークラブに関連付けする行為を厳しく制限してきました。

 世界的飲料メーカーのレッドブルがライプツィヒのクラブを買収してRBライプツィヒを創立した際、RBはレッドブルの略称ではなく『RasenBall sport(芝生の球技)』だと宣言した件は格好のケースで(無理矢理感満載ですが……)、それほどまでにドイツサッカー界における企業の参入には内外から反発があるのです。

12年前に出た個人攻撃のバナー。

 そんな流れのなか、約12年前にドルトムントサポーターがホッフェンハイムのクラブ運営を「金満である」として、ホップ氏の顔にライフルの照準を合わせるようなバナーを掲示する行為が発生しました。

 その後はRBライプツィヒの台頭もありホッフェンハイムへの不満は沈静化しましたが、2018年9月22日、ブンデスリーガ第4節のホッフェンハイムvs.ドルトムント戦で、再びドルトムントサポーターがホップ氏に対する侮辱的バナーを掲げ、チャントを歌いました。

 この行為を問題視したDFBのスポーツ裁判所は、ドルトムントに5万ユーロ(約600万円)の罰金、今後3シーズンはホッフェンハイムのホームゲームすべてでドルトムントサポーターの入場禁止を科す、と発表しました。

 ただし、2022年6月30日まで執行猶予期間を設け、その間に問題行動が起きなければ入場禁止は施行されないことになっていました。

【次ページ】 ホップ氏が裁判を起こしたことで。

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