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宇野昌磨とランビエルの以心伝心。
ようやく言えた「自分に勝ちたい」。
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph byRyota Hasebe
posted2020/03/02 08:00
ランビエル氏に送り出される宇野昌磨。見事にチャレンジカップで優勝を果たした。
2人の相性の良さは容易に分かる。
それでも、七転び八起き。これまで壁にぶつかった時と同様、くじけなかった。フリーから一夜明けて報道陣の前に現れた際の表情は、早くもすっきりとしていた。
「自分が今まで出してきた結果というのに、どうしても負けたくないとか、それに見合った演技をしたいとか、結果を出さなきゃとかずっと思っていたんですけど、今回の演技をもって、そういった感情が少し、少なくなったかなって思いました」
シニア転向後、ファイナルを含む全戦で表彰台に乗っていたGPシリーズで自身ワーストの8位に沈むほどのミスを繰り返したことが、迷いを振り払うきっかけになったようだ。孤独に戦い続けることに区切りをつけ、ランビエル氏に正式なコーチ就任を依頼しようと決意したのは、この時だったのではないか。
その後は日本に帰らず、スイスでランビエル氏とともに練習を続けた。2週間後のGPシリーズ・ロステレコム杯ではリンク内外で明るさが増し、演技にもはっきりと復調の兆しが現れていた。
2人の相性の良さは、公式練習の様子から容易に見て取れた。宇野は英語が「マジで分かんないっす」というほど得意ではないが、ランビエル氏が身振り手振りを交えていくつか単語をつなぐと、しっかりと意図をくみ取っているようだった。
「感覚が非常に似通っています」
ランビエル氏は言う。
「私たちはこれまで多くのショーを一緒にやってきたし、感覚が非常に似通っています。だから少しの言葉で(意図を)説明することができます。(コミュニケーションの問題は)全くありません」
コーチを依頼されたら引き受けるか、と尋ねた。「考えることになるでしょう。全日本選手権が終わってから判断することになります」と慎重な答えが返ってきた。
筆者は大会後の記事に「2人とも明言は避けているものの、言葉の端々からは2022年北京五輪に向けてタッグを組む可能性が高いことをうかがわせる」と記した。それは間もなく、現実になった。