フィギュアスケートPRESSBACK NUMBER
宇野昌磨とランビエルの以心伝心。
ようやく言えた「自分に勝ちたい」。
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph byRyota Hasebe
posted2020/03/02 08:00
ランビエル氏に送り出される宇野昌磨。見事にチャレンジカップで優勝を果たした。
2カ月ぶりの実戦でも輝いた。
12月、全日本の開幕前。今後の練習環境を問われた宇野は、「たぶんステファンのところに」。正式な形での発表ではなかったが、うそがつけない性格なのだろう。メディアには「フライング発表」と報じらた。
全日本を現場で取材していない筆者は、ネット動画で演技を確認した。SP、フリーともミスを抑え、まさかのミスが続いた羽生結弦をフリーで逆転し、4連覇を果たした。何よりも印象的だったのが、伸び伸びとした表情。今季序盤のフィンランディア・トロフィーから取材してきた中で、最も輝いて見えた。
全日本以来、約2カ月ぶりの実戦となったチャレンジ杯でも、輝きは変わっていなかった。SPはジャンプでひとつミスが出たものの、フリーは昨季から決まらないことが多かった4回転サルコーを見事に着氷。出来栄え点(GOE)でも大幅な加点を引き出し、全体もまとめて高得点を挙げた。
「僕1人だったらサルコーは絶対に入れてなかった。フリップに手こずっているくらいだったので。でも、そこのあと一押し。『この試合に完璧な、無難な演技をしにいく必要はない』。試合前は『チャレンジを楽しんで』と言われて、それがそのままできたかなと思います」
長期的な成長も見据え、リスクがあったサルコーに挑戦させたコーチと、その期待に応えた選手。師弟関係になってからの期間は短いが、早くも良い化学反応が起こっていた。
ステップの最中、楽しそうに笑う。
取材後に記事を書き終え、写真の整理をしていると、いくつかの表情に目が止まった。ステップの最中、本当に楽しそうに笑っていたからだ。
撮影中に気がつかなくても、見返すと明らかになることがよくある。心の様子が、はっきりと映ったと思えることが。演技のためにつくった笑顔とは思えなかった。全日本の演技を動画で見ながら感じた輝きが、生き生きとした表情に映し出されていた。
次戦は3月にカナダ・モントリオールで開催される世界選手権。羽生結弦との再戦だけでなく、3連覇を狙うネーサン・チェン(米国)らとのメダル争いが注目される。宇野はどんな思いで今季最大の大舞台を迎えようとしているのか。表彰台に返り咲く意欲を問われると、こう答えた。
「もちろん、あります。やはりいい点数を出していい結果を残すというのは、練習していく中でのモチベーションでもあり、たくさん頑張って練習する自分へのご褒美にしたいとも思っているので」