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宇野昌磨とランビエルの以心伝心。
ようやく言えた「自分に勝ちたい」。
 

text by

長谷部良太

長谷部良太Ryota Hasebe

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photograph byRyota Hasebe

posted2020/03/02 08:00

宇野昌磨とランビエルの以心伝心。ようやく言えた「自分に勝ちたい」。<Number Web> photograph by Ryota Hasebe

ランビエル氏に送り出される宇野昌磨。見事にチャレンジカップで優勝を果たした。

「自分に勝ちたい」と言えるように。

 ただ、と付け加える。

「去年までみたいに『強くなりたい』『うまくなりたい』と、自分が強くなろうとは思わない」

 少し分かりにくいかもしれないが、「他の選手よりも」という言葉を補うと腑に落ちる。他人を上回ることを目標に置いてしまうと、必要以上に自分にプレッシャーをかけてしまい、結果的にいい演技につながらないことを、22歳は十分に学んできた。

 日本メディアの取材が終わり、地元オランダメディアの取材に通訳を介して応じていた最中にも、印象に残る言葉があった。世界選手権では勝つことが目的か、と問われた時だった。

「う~ん……たくさ~んすごい選手がいるので、誰に勝つっていうよりも、本当に誰に勝ちたいんですかって言われたら、自分に勝ちたいです」

 少し前までは自らに期待できず、「自分自身」を目標にできる状況ではなかった。復調の手応えを確信した今だからこそ、自分を越えることが目標と言えた。

スイスで過ごす理想的な日々。

 ここまで状態を戻せた要因は、ランビエル氏の存在に加え、スイス・シャンペリーでの落ち着いた練習環境も大きい。

 アルプスの山あいにあり、どこかのんびりした雰囲気が漂う美しい街。普段は午前6時半ごろ起床し、8時過ぎから練習。休憩をはさみ、午後2時ごろから再び練習。リンク外でのトレーニングもあり、「それやったら部屋に帰って寝て。本当にその繰り返しです」。

 今の宇野にとっては、理想的な場所のようだ。

「僕はすごく気に入っていて。ほんっとうに(練習以外にやることが)何もないんですけど、僕はそれがまたいいなと思っていて。スケート人生が終わるまで、楽しみたいって思ったことがここならできるなって思ったので。すごくいい環境だなと思ってます」

 GPファイナル出場を5季ぶりに逃し、ここまでトリプルアクセル-4回転トーループの大技を組み込めなかった点など、シーズン序盤の出遅れによる代償は小さくはない。それでも、1人のつらさを肌で感じ、どん底を経験した後、頼れる存在に巡り合い、心からの笑顔を取り戻した。

 令和の新時代とともに始まったシーズンは、競技人生でも濃厚な時間として記憶に残るだろう。

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