スポーツは国境をこえるBACK NUMBER
タンザニア初、女子陸上大会の開催。
立ち上げに関わった日本人女性の思い。
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byJICA
posted2020/02/13 15:00
遠く離れた町から参加するために、役場から交通費の寄付を受けた選手もいた。
昼食は届かず、シューズも履かない。
「タンザニアの担当者と準備を進めるわけですが、アフリカ人はのんびりしていて、まったく話が進まない。トロフィーを揃えるだけでも大変なんです」
伊藤さんはタンザニアの人たちと時にはぶつかり合い、そのたびにイカンガーさんになだめられながら懸命に準備を進め、やがて本番がやって来る。ここでもタンザニアらしいハプニングが次々と起こった。
「頼んでいた昼食が全然届かず、届いたのは予定の4時間遅れ。裸足の選手が多いのも驚きでした。貧しくてシューズを持っていない子が多いのですが、持っていてももったいないからといって履かない子もいて」
気苦労が絶えなかったが、それでも伊藤さんはLFを開催してよかったと思った。
「地元テレビ局が生中継したことで、多くの人がLFを見たようです。想像以上に評判がよく、“女性がスポーツする姿が格好よかった”、“私もやりたくなった”という声が数多く挙がっていました」
偏見は過去のものになりつつある。
LFを機に、ソフトボールブームも起きた。大会の合間にタンザニア唯一の女子チームが実演をしたところ、これをきっかけに多くの女子がソフトボールを始め、いまでは8チームが活動しているという。
LFによって、タンザニアに根深く残る「スポーツは男がやるもの」という偏見は過去のものになりつつあるのかもしれない。
第1回大会が盛況だったことで、LFは毎年行われるようになった。
昨年の第3回大会を成功させて、タンザニアでの任期を終えた伊藤さんが言う。
「タンザニアには、女性に生まれたことを否定的に捉えて生きている人が少なくありません。これほど悲しいことはないと思います。LFがすべてを変えるとは思いませんが、この大会を通じて“女性でいることは素晴らしいんだ”、そう思える人をひとりでも増やしたい。この大会で自信をつかみ、将来、国際舞台で活躍する。そんな女性のロールモデルになるようなアスリートが出てくることを願っています」
企画協力:国際協力機構(JICA)