令和の野球探訪BACK NUMBER
国立・静岡大からドラフト指名野手。
主体性を育む“兼業”監督の仕掛け。
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2020/01/25 19:00
静岡大・高山監督(左)と肩を組む奥山皓太。阪神に育成2位指名を受け、夢だったNPBの世界に挑戦する。
選手たちの知恵を借りながら。
また、「勝つには絶対的な筋力も必要。投手で言えばスピード、野手で言えば長打力や走力に必要な筋力をつけるように」と現代の野球には欠かせない要素となるウェイトトレーニングにも力を入れる。
前述した環境ゆえに専任のトレーナーはいない。そこでトレーニングジムでアルバイトしている選手たちの知恵を借り、練習メニューを作成した。
「ウェイトトレーニングって勉強と同じで、自分でコツコツと地道にやれる人が能力を上げていくんです」
高山監督は簡単ではない受験を突破してきた国立大生の強みを強化に結びつけた。
すると、ほとんどの選手たちがジムに自費で通うほど意識が高まった。現在は野球部でウェイト器具を購入し、グラウンド横でも充実したトレーニングが行えるようになったことも手伝って、本塁打の数も増えた。最速140キロを超える投手も最速146キロの石田雄大(新3年・刈谷高)、井手駿(新3年・高蔵寺)、142キロの足立真彦(新4年・中京大中京)、右サイドで140キロの神田貴浩(新4年・島田)と4人もいる。高山監督がコーチとして赴任して以降は、卒業後も硬式野球を続ける選手が増えているという。
ちなみに時給900円の焼肉屋でアルバイトしていた奥山のように、それぞれが勉強とアルバイトにも打ち込んでいる。大好きな野球に必要な時間や資金を自分たちで生み出す主体性が、彼らの成長を促しているのは間違いない。それこそが、静岡大の大きな武器となっているのだ。
「全国4強」を目指す高山監督。
奥山は高校時代から状態の悪かった右肘の故障により投手から外野手に転向したが、「諦めなかった昔の自分に感謝したいです」と大学時代を振り返る。
身長186センチ93キロと大柄ながら50メートルを5秒8で走り、遠投も120メートルを投げる。主体性をもって野球に取り組んだことで、その高い身体能力が生かされ、数年前までは夢にも思わなかったNPBの世界に羽ばたくことになった。
今年の選手たちの目標は史上初の「全国1勝」。高山監督はさらに上の「全国4強」を掲げる。その高い向上心もまた静岡大の今後の鍵となる部分だ。
NPB選手誕生というこれまでにない刺激を得て、後輩たちがどんな成長や躍進を遂げるのか注目したい。