第96回箱根駅伝(2020)BACK NUMBER
青山学院大学、2年ぶり箱根駅伝総合優勝。
戦術のカギとなった「花の2区」の黄金ルーキー。
text by
別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu
photograph byYuki Suenaga
posted2020/01/06 11:00
青学大の2区に抜擢された1年生の岸本大紀。新潟県の進学校・三条高校の出身。
「1区に持っていくことによって……」
それだけ評価している吉田圭という選手をあえてスターターの1区に持って来るのは、意外に悩ましい判断だったはずだ。全チームが一斉にスタートする1区はスローペースになる可能性もあり、そこにチームのエースを投入する判断は、展開によっては実力者の無駄遣いになりかねないからだ。
それでも1区に吉田圭を置いたのには、こんな理由があったのだと指揮官は振り返る。
「東京国際大学のイェゴン・ヴィンセント選手(1年)が1区に来る可能性が高かったので、彼が来た時に対応できるランナーは誰かと考えると、ウチでは吉田圭太しかいなかった。1区に吉田圭太を持っていくことによって、絶対に先頭から大きく遅れることはないという状態を作り出したわけです」
18秒差の7位は悪い走りではないが。
留学生を軸としたハイペースなレースで振り落とされないために、エースを起用する。そしてあわよくば流れに乗ってそのハイペースを加速させ、他のライバルチームを振り落とそう――そんな計算をしていたはずだ。
ところが、実際に当日変更の区間エントリーを見てみると、東国大のヴィンセントは3区。他にも1区起用が予想された日本人有力ランナーも何人か3区に回り、想定とは少し違った形になった。その分、エースの札を切った青学大としては、何としてでも先頭でたすきを渡さないといけない格好になってしまったのである。
実際にレースが始まると、ハイペースのレースにはなったものの、走りやすい気候も相まって一気に飛び出す選手はいなかった。結果として思った以上に最後まで集団が崩れず、むしろ最終盤に吉田圭が振り落とされる結果となった。
18秒差の7位でたすきを繋いだのは決して悪い走りではない。だが、チームのエースを起用した上で優勝候補のライバル東海大、國學院大に先行されたという展開では、大きなアドバンテージを稼ぐことも出来なかった。