バレーボールPRESSBACK NUMBER
東山が6年ぶりに掴んだ春高の舞台。
世界基準のバレーで目指す日本一。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph bySankei Shimbun
posted2019/12/30 09:00
ライバル洛南を倒し、6年ぶりの春高バレーに出場する東山。セッター中島を中心とした高速バレーで日本一を目指す。
手応えを感じていた「立体高速バレー」。
もう1度、さかのぼること1年。
京都予選をひと月後に控えた2018年10月。東山を率いる豊田充浩監督は、優勝候補と目される洛南にひと泡吹かせてやろう。ではなく、本気で日本一を見据えていた。
決して強がりではない。さらに言えば、幾度となく繰り広げて来た対戦から完璧な洛南対策を見つけた、などという安易な理由でもない。漠然と描き、目指し、つくりあげてきた東山の「立体高速バレー」が少しずつ形になりつつある。そんな確かな手ごたえを感じていたからこそ得られる自信が、「洛南に勝てる」という確信になりつつあった。
大半が「洛南が勝つだろう」と思っている中で、東山が勝ったらどれほど驚くか。いやその前に、この胸躍る東山のバレーボールを見たら、どれほどの人がワクワクするのだろうか。1日、1日と日が迫るたび、高まるのは嫌な緊張感ではなく、期待と高揚感。
大きすぎたセッター中島の負傷。
だが、アクシデントはそんな時に起こる。
京都予選を2週間後、決勝を約3週間後に控えた11月初旬の練習中だった。当時2年生の正セッター、中島健斗がコート後方に飛んだボールを拾おうとフライングレシーブで追いかけた先にあった台に突っ込み、右肩を負傷。脱臼と診断され、春高予選に出ることがかなわなくなったどころか、手術も余儀なくされるほどの重傷を負った。
小学生の頃から全国大会を制するなど、豊富なキャリアを持つ中島が「打倒・洛南」と掲げ、入学してきた場所でコートに立つことすらできず敗れる。その心中を豊田監督は「どれほど悔しかったか、と思うとかわいそうで仕方なかった」と察すると同時に、口にするのは悔恨の言葉。
「勝てなかったことはもちろん悔しいです。でもそれ以上に思うのは、どうしてあの時、あの場所に台があったのか。ケガをするような状況を防ぐことはできなかったのか。あれからはボール1つ見ても『あっちに転がったらケガをするかもしれない』と、見る場所が変わった。それぐらい、私自身の指導生活の中でも悔やまれる出来事でした」
練習中、豊田は指導をコーチに任せ、コートの端々を動き回る。審判台や練習台にその都度、マットを立てかけながら。
バレーボールにおいてセッターは不可欠で、チームの攻撃を組み立てる中心的存在であるのは言うまでもない。
だが、中島がチームの中で占める比重はそれ以上だった。
なぜか。それは東山が目指すバレーを体現する存在だからだ。今年から同校コーチに就任し、メニューの構築も含め、練習の指導を任されている松永理生は「紛れもなくその中心にいたのが中島」と言う。