“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
市船が新監督で挑む初の選手権。
「ようやく勝負強さが出てきた」
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/12/26 11:30
攻撃を牽引する10番鈴木唯人ら、注目選手が揃う市立船橋。監督、選手にとって初めての選手権に挑む。
転機となった柏U-18戦での敗戦。
プレミアEASTでは、序盤から2勝3敗1分けと苦しみ、インターハイ予選では準決勝で日体柏高校に敗れ、夏の全国出場を逃した。インターハイ予選後もプレミアEASTで勝ち切れない試合が続き、第8節には同じ千葉県のライバル・流通経済大柏高校に0-2の敗戦。翌9節には青森山田高校に0-3の完敗を喫するなど、夏を越えてもエンジンが掛からない状況が続いた。
「市船の看板は物凄く重い。特にこの時期は感じていました」
極めつけはプレミアEAST第13節の柏レイソルU-18戦。前期に0-3で完敗した相手に同じ轍を踏むことは許されない試合で、1-4の大敗。波多にとっても、選手たちにとっても、あまりにもショッキングな敗戦だった。
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しかし、この結果が彼らを蘇らせることとなる。
試合後の選手だけのミーティング。これまでの雰囲気とは違ったと、キャプテンのMF町田雄亮は当時を振り返る。
「レイソル戦までは選手ミーティングでお互いの思いを言い合えていなかった。話し合っていたつもりだったのですが、どこかで本音をぶつけられない雰囲気があった。でも、あの敗戦で本当に危機感が芽生えて、全員がその場で本気で向き合えたんです。『全然お前が守備しない』、『全力でプレーしてないじゃん』と。一方的ではなくて、お互いに。一見、より険悪になったように思われるかもしれませんし、チームとして『こうしよう』という答えが出たわけではないのですが、本音でぶつけあったことが大きかった。それぞれの胸の内がわかったんです」
「伝統を捨てたのか」「独自のカラーはないのか」
実はこの頃、選手たち各々が何かしらの“モヤモヤ”を抱えていた。それぞれがチームのためと思って、誰一人としてそれを口外しようとはしなかったのだ。
「監督が替わることで『どうなっちゃうんだろう』と先が見えない不安はありました。でも、『なぜ替わるんだ』という感情は僕らにはなかった。朝岡監督にたくさんのことを学んできし、波多監督の下ではそれを生かしつつ、また新しい風が吹くのだろうなと思っていました。それに波多監督はずっとコーチとして見ていてくれた方だし、熱心に僕らと向き合ってくれる人だということは分かっていた。
もちろん当初は、(監督になって)距離感がどうなるんだろうとは思いました。コミュニケーションが取りづらくなるんじゃないかと思いましたが、実際はそんなことなくて、むしろより積極的にコミュニケーションをとってくれるようになった。そういうところで不安や先行き不明が解消されていきました。だからこそ、結果が出ない時にみんなが自分にベクトルを向けて考えることができた」
高校生にとって、指揮官が替わることは少なからず影響を及ぼすだろう。ましてや前任が強烈であればあるほど、相当な残像が残る。新体制になっても、しばらくはその残像との戦いになりかねない。
さらに周囲の声に敏感になる時だ。一新すれば「伝統を捨てたのか」と言われ、継承すれば「独自のカラーはないのか」という雑音が聞こえてくる。結果も伴わなければ、新監督を否定してしまう声が上がるかもしれない。並のチームであればどんどん雰囲気が悪くなるだろう。
だが、彼らは壊れなかった。
「監督に対しても、チームに対しても、疑心暗鬼には一切ならなかったです。監督が替わったからということより、単純に自分たちの代には勝ちきる力がなかった、勝負強さがなかったと捉えていました」と町田が語れば、2年生CBの石田侑資も「波多監督は凄く熱い人で練習から盛り上げてくれるし、コーチから監督に変わってもいろいろ相談に乗ってくれますし、僕はかなり信頼を置いています」と口をそろえる。