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故郷で巡る“笑わない男”の少年時代。
ガッキー伝説はやっぱり凄かった。 

text by

近藤篤

近藤篤Atsushi Kondo

PROFILE

photograph byYusuke Ohashi

posted2019/12/26 11:50

故郷で巡る“笑わない男”の少年時代。ガッキー伝説はやっぱり凄かった。<Number Web> photograph by Yusuke Ohashi

幼稚園時代の稲垣啓太。この頃、ホッピングで幼稚園の床を破壊したという。

母校の天然芝グラウンドに300万円。

 幼馴染、チームメイト、そして本誌の記事で最後に登場するのは、新潟工業高校ラグビー部監督、稲垣啓太の恩師でもある樋口猛さんである。

 記事はこう続いてゆく。

~~ブルドックで3人の話を聞いた翌日の夕暮れ前、僕は新潟市西区にある新潟工業の校庭にいる。目の前には'19年9月、稲垣が寄付して完成した天然芝のラグビーグラウンドがあり、そこでは3週間後に迫った花園に向けて新潟工業ラグビー部員が懸命に楕円球を追いかけている。

 グラウンドの真ん中に立って静かに練習を見守るのは、この高校を率いて今年で18年目になる樋口猛監督だ。樋口はこの高校の体育教師でもある~~

 樋口監督に聞いた話で本誌から漏れてしまったのは、ガッキーが今年の5月、母校の天然芝グラウンドに300万円を寄付したエピソードである。

 まず話は、今年新潟工業ラグビー部に入部した1年生が、春先たったの7人だったところからスタートする。

「部の存続だとかそういうことを含め、本当に困ったなと。もともと、グラウンドを芝生化したいっていう考えはあって。グラウンドの端のスペースに芝生を植えたりして実験していたんです」

県立高校特有の手続きをとばすパワー。

 新潟県内には人工芝のグラウンドを持った私立高校が2つあり、そこには結構部員が集まっていた。

 樋口監督はOBの造園屋に電話をし、「芝生化は今年やるからとにかく注文してくれ」と告げた。時期を逃すとまた1年後になってしまう。

 問題は資金繰りだった。学校、OB会、さあどうすればいいのか。そんな話を家で話していたら、樋口監督の奥さんがさらりとこう言った。「そんなの稲垣くんに寄付してもらったらいいじゃん」と。「稲垣くん、ベンツ乗ってるんだから大丈夫だって」(笑)と。

「それもそうだなと思ってですね(笑)。それで、ちょっとメールしたんですよ。私が直に頼むと断りにくいだろうから、一応当時のキャプテン(先ほど登場した栗山さんである)を介して、ダメならダメで断ってくれていいからって」

 ちょうどオーストラリアに遠征で出かけていた稲垣からは速攻即答で返事が返ってきた。「分かりました。喜んでやらせてもらいます」と。稲垣啓太はそういう漢である。

 樋口監督は、稲垣啓太が登場してくれたから全てはスムーズに進んだんですよ、と説明する。

「県立高校って大変なんですよ。芝生を勝手には植えられないし、寄付についてもまず協議してもらわなきゃいけない。その時、日本代表・稲垣啓太が寄付してくれるんですが、どうですか? っていったら、県はダメって言えないじゃないですか。

 9月に行ったグラウンド開きにもちゃんと来てくれて、ラグビースクールの子供達、みんなで壮行会も出来た。そして本番では彼が大活躍、もう万々歳ですよ」

 とまあ、こんな具合に、話を聞けばガッキー伝説は次から次に出てくる出てくる。ちょうど巷では「スター・ウォーズ エピソード9」が封切りされて盛り上がっているが、ガッキーのサーガもまだまだ続きそうな気もする。

 とりあえず次回は、「稲垣啓太 トップリーグの逆襲」みたいな感じだろうか。

12月26日のNumber993・994号「桜の告白」には、近藤篤さんが稲垣啓太の故郷を訪ねたルポ「“笑わない男”のすべらない話in新潟」が掲載されています。同級生と恩師が語る超弩級のガッキー伝説の数々は必読。そして、近藤さんから取材の成果を聞いた“笑わない男”本人が語った一言とは? ぜひお手にとってご覧ください。
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#稲垣啓太
#ラグビーワールドカップ

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