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西武アカデミーにエースはいない。
エリート育成より野球の楽しさを。
text by
市川忍Shinobu Ichikawa
photograph byShinobu Ichikawa
posted2019/12/12 20:00
ライオンズアカデミーでは野球を通じて心と身体を育み、野球の楽しさを伝えている。
野球の楽しみ方は子どもに合わせる。
尾名高氏も言う。
「野球の楽しさを知ってほしいということからスタートしていますので、『うまいかへたかで子どもたちに何かを言うことは絶対にしない』とコーチ陣とは決めています。
『バットを10回振りなさい』というときに9回しか振らなかった子がいても何も言いません。それは『9回が楽しい』と感じた、その子の楽しみの観点に関わるからです。9回が楽しいのなら9回でもいい。でも、そのときに周囲に話しかけて練習の邪魔をしたり、バットを振り回してほかの子に危険が及ぶときには強く注意するようにしています」
こうした全コーチ共通の認識は、月に一度行われる全コーチと事業部とのミーティングの席で作り上げている。
最近起こった出来事を持ち寄り、どういう対処法を取ったのか、議題を話し合ってフィードバックすることで、どのクラスでもライオンズアカデミーならではの指導が受けられる仕組みを作ってきた。
成果が見えにくいが、重要な仕事。
あくまで野球と出会うきっかけ作りと、野球人口のすそ野を広げることがアカデミーの基本方針ではあるが、新しい挑戦も検討の視野に入っていると尾名高氏は言う。
「すそ野をさらに広げるために『よりうまくなりたい子』と『全く野球をしたことのない子』のクラスを別に作ることも視野に入れています。あと今は野球界全体で怪我の防止が大きな課題となっていますよね。せっかく始めた子が怪我をして野球ができなくなるのは悲しい。
定期的にヒジの検診を行ったり、トレーニングの中にも怪我を予防するメニューを入れるなど、故障から子どもたちを守る観点も持って活動しませんかということは会社、コーチ陣とよく話しています」
野球の普及活動は、スター選手の活躍やリーグ優勝など、トップチームの話題に比べると目立たず、成果が見えにくい事業ではある。しかし、だからといって手を抜かず、年月をかけて「野球振興」という理念を育ててきたライオンズアカデミーの道のりを見ると、今後の活動にも注目を続けたくなる。
「やりがいのある仕事です」と揃って断言した、アカデミー関係者の今後に期待したい。