マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「秋の甲子園」に集った才能の数々。
今年の1年生は投手も野手も粒揃い。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/12/04 11:30
高校野球にとって秋と冬は成長とチーム作りの時期である。熊野は多くの学校にとってその絶好の場所になっている。
近大高専の白石は間違いなく逸材だが……。
報徳学園には、この秋の「兵庫No.1」の立役者・坂口翔颯(かすが)投手(2年・178cm78kg・右投右打)を楽しみにしていたが、残念ながら激戦の疲れが抜けきらず、そのピッチングが見られなかったのが心残りではあった。
実は今年の「熊野」で、とても楽しみにしていた選手がいた。
昨年同じ場所でプレーを見て、そのエネルギッシュな投打が、向こうからこっちの目に飛び込んできていた。
正式名称で、近畿大学工業高等専門学校。以降、「近大高専」と呼ばせていただく学校のエースで4番・白石晃大選手(2年・179cm81kg・右投左打)である。
昨年は、1番・センターだった。
打席の構えがピタリときまり、野球のユニフォームがピタリと似合う均整抜群のシルエット。足元から巻き上げてくるようなスイングスタイルに、両腕のスイングバランスにも左右の偏りがなく、まさに「いい匂い」のする逸材の卵と見ていた。
今年も、その通りのスイングだった。
安易に誰かのマネをしたような余計な“枝葉”も見られず、「バットマン・白石晃大」そのままの素直なスイングから、センター、左中間、右中間に痛烈な低い打球を再三繰り返す。その打球方向にも、ムリや妙な気負いが見られなかった。
大器ならば、大器なりの志を。
並みの選手なら、そこまでで十分なのだが、この選手は「逸材の卵」と位置付けている。
正直、こんなもんじゃないだろう……と思った。
こんなもんじゃいけないだろう! 叱咤する気分にもなった。
私が見たかったのは、去年と同じ痛烈なシングルヒットじゃない。
見たかったのは、頭上を越された外野手が一歩も動けないような「音速アーチ」であり、正面のライナーが軌道途中からグーンとホップするように伸びて、そのままフェンスを直撃する「スーパービーム」。
打てないまでも、それぐらいのレベルを求めているのがはっきり見てとれるような猛烈スイングと打席での迫力や凄味、そこだった。
エースとしてマウンドに上がったって、前田健太(ドジャース)のPL学園の頃がそのまま重なるようなしなやかなオーバーハンドから、本気で投げれば145キロ前後だろう。
それだけの能力を持った逸材の卵が、会心の打球もあったが、2日でシングル4、5本に三塁打1本並べたぐらいでもし満足していたとしたら、「この先」はないと心得たほうがよい。
志は空よりも高く!
それは、誰もが持ち得るものでは決してないのだから。