マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「秋の甲子園」に集った才能の数々。
今年の1年生は投手も野手も粒揃い。
posted2019/12/04 11:30
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Hideki Sugiyama
「くまのベースボールフェスタ 練習試合in熊野2019」……かなり長い名称のこの催し。長いだけのことはある、内容もまさに「秋の甲子園」だ。
「熊野」の時は、隣り町の新宮からレンタカーで通うのだが、その道中がすばらしい。
海沿いの国道をおよそ30分。行く手の右側は、ずっと太平洋だ。
このあたりは「熊野灘」と呼ばれ、アメリカまで続く広大な黒潮の海がどこまでも見渡せる。行く手の左側には、熊野の山々が連なり、ところどころにみかん山のオレンジの点々が目に楽しい。
この景色に魅せられて、秋の熊野をこよなく愛する監督さんもおられるほどだ。私だって、ほんとのところ、そのクチだ。
報徳学園・久野の稀少な能力。
遊学館vs.報徳学園。
まさに「甲子園」のようなカードで、遊学館の1年生右腕と投げ合った報徳学園の長身左腕・久野悠斗(183cm76kg・左投左打)もまた1年生だ。
外野のフェンスの向こうからひと目見て、アイツだ……とわかった。
手足が長く、スリムなシルエットのユニフォーム姿。セットポジションから体を柔らかくくねらせたオーバーハンド。上体だけで力み過ぎない。全身の連動で、腕を振るというよりは、下のアクションにつられて腕が勝手に振られている……そんな印象のメカニズムに好感が持てる。
スピードガンの数字と勝負するような愚を犯すタイプじゃない。
スライダー、カーブでサッとカウントが作れるのが、まずいい。そうしておいて、右打者にはシュート回転のきびしい速球でファールを打たせ、左打者にはクロスファイアーの球筋でファールを打たせて追い込める。あとは打者の反応を見て、打ち取り方を決める。
打ち取るストーリーを描ける左腕。この時期の、このサイズの左腕としては稀少な存在だ。
数字はまだそんなに出ていなくても、球筋と質の高い速球の持ち主だ。