マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「次の奥川恭伸」候補を熊野で発見。
遊学館1年・土倉瑠衣斗は逸材だ。
posted2019/12/02 08:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Hideki Sugiyama
毎年、野球の現場の最後のところで訪れるのが熊野である。
三重県熊野市……近年は「熊野古道」が注目を浴びて人が訪ねるようになったが、大阪からでも半日、東京からだとほぼ一日仕事の、なかなかに骨の折れる場所だから、そうそう京都のように、人がワッと押し寄せるような土地でもない。
そんな熊野に毎年、もう野球シーズンも幕を閉じようというこの時期に、地元・東海はもちろんのこと、関東から、北陸から、中国から、さらには東北からも、甲子園でおなじみの高校野球チームが今年は10校集まった。
10時間、15時間の移動の旅をものともせず、熊野に押し寄せた。
北から挙げていこう。
この秋の東北大会準優勝の鶴岡東、夏の甲子園8強・関東一高、神奈川からは横浜隼人がやって来て、愛知からは公立の伏兵・大府高と私立の伏兵・豊田大谷だ。
北陸からは敦賀気比、遊学館が毎年のように参戦し、今年は長野日大が戦列に加わり、近畿から報徳学園が初参加すれば、岡山からは創志学園だ。阪神1位指名の西純矢が、去年の「熊野」で豪腕を奮っていたのが、つい昨日のことのようだ。
迎え撃つ地元勢は、木本高、尾鷲高、近大新宮高、近大高専に、今年は昨夏初の甲子園出場に輝いた白山高が加わった。
参加15校が、熊野、新宮の5会場を舞台に繰り広げる「練習試合」の祭典。
私はこの「くまのベースボールフェスタ 練習試合in熊野2019」のことを、勝手に「秋の甲子園」と呼んで、すごく楽しみにしている。
68歳と思えないノックの打球音。
試合前、遊学館高(石川)・山本雅弘監督のノックが、次々外野に飛んでいく。
さっきまでネット裏で並んで、お互いの“余生”について語り合っていた山本さんは、「もう今年で68ですよ」と笑っていたが、とてもじゃないが68歳の打球じゃない。アップテンポの外野ノックが、ポンポン飛んでいく。
「ノックの打球音が、昔のまんまだ……」
15年ほど前に遊学館高で山本監督の薫陶を受け、今は阪南大学(大阪)の指揮を執る垣下真吾監督が驚いている。
「あと2、3年やらせてもらったら、どこかあったかい所へ行って、のんびり暮らして……」
ほんのちょっと前まで、そんな風に外国へ移住しての余生を妄想していた山本監督だったが、昔と変わらぬノックの打球を眺めながら、「球音の聞こえてこない土地に移り住んで、いったい1年もつのか、半年もつのか……」、そんなこと考えているうちに鶴岡東高との試合が始まった。