第96回箱根駅伝(2020)BACK NUMBER
[平成ランナーズ playback vol.3]
佐藤悠基「天才ランナーが見せた“空前絶後”の新記録」
text by
別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu
photograph byYomiuri/AFLO
posted2019/11/28 11:00
東海大・佐藤悠基が区間2位につけた4分01秒差は、1区が現行コースとなった1972年以降では過去最大のタイム差だった。
語られてきた高校時代の逸話。
佐藤はもともと鳴り物入りで東海大へ進学してきたスーパールーキーだった。
中学時代から全国区で活躍し、3000mで中学記録(当時)を樹立。その後に進学した佐久長聖高校では、高校2年時に全国高校駅伝で4区を走り区間新記録。
高校3年時には5000mで13分45秒23、10000mで28分7秒39という驚異的な記録を叩きだしていた。10000mの記録は現在でも残る高校記録だ。
本人は喜ばないかもしれないが、有体に言えば「天才ランナー」の代表格のような選手だった。
高校時代から逸話には事欠かない。
曰く、インターハイの県予選では、優勝したレースの直前に30km走をしていた。
曰く、辣腕の指導者たちが「佐藤に周回遅れにされなければ、インターハイに出られるから」と大真面目に指導していた。
そんな話が語られるほど、圧倒的な存在だった。
異なる3区間で区間新記録。
ただ、天才が天才で居続けることは、想像以上に難しい。
過去にも多くの実績のあるランナーたちが、大学駅伝というフィールドで大成できずに終わっていた。成長のピークもあれば、20km超という距離への対応もある。また、箱根駅伝ともなればこれまで感じたことのないレベルの重圧や、チーム内の激しい競争という要素もあった。
佐藤自身も、大学駅伝へのデビューには不安も大きかったという。
「1年生の時は練習でも20kmを速いペースで走ったことがなかったんです。だからレースでのペース配分も全然、分からなかった。箱根駅伝の直前は、もう不安で仕方なかったです」
それでも初めて箱根路を駆けた2006年の第82回大会では、3区を走っていきなり区間新記録。区間2位に1分30秒以上の差をつけ、スーパールーキーの実力をいかんなく発揮した。
そして、前述の衝撃の2年目の走りで大会MVP(金栗四三杯)を獲得すると、3年目は7区を走って3度目の区間新記録。最終学年は年間を通じた故障の影響もあって満足なコンディションではなかったにもかかわらず、再び3区を走って自身の区間記録にあと6秒まで迫ってみせた。
箱根駅伝の歴史を紐解いてみても、異なる3区間で区間新記録をマークした選手は佐藤ただひとりである。