第96回箱根駅伝(2020)BACK NUMBER
[平成ランナーズ playback vol.3]
佐藤悠基「天才ランナーが見せた“空前絶後”の新記録」
text by
別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu
photograph byYomiuri/AFLO
posted2019/11/28 11:00
東海大・佐藤悠基が区間2位につけた4分01秒差は、1区が現行コースとなった1972年以降では過去最大のタイム差だった。
箱根駅伝を変えた佐藤の走り。
また、2年目の1区で2位に4分以上の差をつけた走りは、近年の箱根駅伝の戦略そのものにも大きな影響を与えた。
戦力均衡の進んだ現代駅伝の1区は選手同士がけん制し合い、スローペースで集団を形成することが多かった。そのため有力校はエース格の選手を置かなくとも、それほど先頭と大きな差がつかず、秒差で繋げることがほとんどだった。
だが、この年に佐藤の大逃げが決まったことで、「エース級を1区に置くことでアドバンテージを取ることができる」ということが明確になった。そのため各校がエース格の選手を1区に置くようになり、近年のスピード駅伝の風潮が一気に加速したのだ。今では1区で置いて行かれることは、その時点で優勝がほぼ不可能になることを意味する。
4年後の第87回大会では、早稲田大学の大迫傑が1区で飛び出し、2位に1分近い差をつけると、そのまま早大の総合優勝への流れを作った。ある意味で佐藤の走りは、箱根駅伝の戦術そのものを変えてしまったのである。
そして、その大迫や東京五輪マラソン代表の中村匠吾(駒澤大学)を以てしても、佐藤の区間記録を塗り替えることはできなかった。
「まだあの人、走ってるのかよ」
大学卒業後の佐藤は、トラックを中心に国内では無類の強さを見せると、2012年のロンドン五輪に出場。その後は2013年にマラソンに転向し、ロードでも日本トップクラスの能力を見せてきている。
今春の東京マラソンでは25kmまで日本記録を上回るペースで突っ込む攻めの走りを見せると、9月に行われたマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)でも日本屈指のランナーたちと鎬を削った。12月には福岡国際マラソンで、東京五輪に向けたファイナルチャレンジに挑戦する。
中学時代からかぞえて20年近く。
それぞれの世代で、変わらずトップクラスで走り続けることのできたランナーは、これまでほとんどいなかった。それだけにベテランになった今でもなお、佐藤が走り続けていることは、それだけで意味があることのように思う。
そういえば2度目のマラソンの後には、こんなことを語っていた。
「走れている限りは陸上選手として現役を続けていたいんです。後輩たちから、『まだあの人、走ってるのかよ』って嫌がられるまで続けたいですね(笑)」
その言葉通り、彼はいまでも天才ランナーであり続けている。