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井上尚弥の怪物性は薄れたのか?
“Drama in Saitama”の海外評。 

text by

杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2019/11/20 11:45

井上尚弥の怪物性は薄れたのか?“Drama in Saitama”の海外評。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

ドネア戦終盤の戦いぶりに高い評価を受けた井上尚弥。「怪物性」をより色濃いものにした一戦だった。

試練を乗り越えた「終盤」に好評価。

「今回の試合で井上は単なるパンチャーではなく、ガッツがあり、タフネスも備えていると示した。快進撃の過程では恐れられたパンチャーが、試練を味わうと馬脚を現す例を見てきた。しかし、井上は最後の3ラウンドで再びペースを上げ、これまで未知数だった部分を証明したんだ。私は依然として井上を高く評価している」

 ESPN.comのスティーブ・キム記者はそう述べ、実際に試合前後で変わらずに井上をパウンド・フォー・パウンド・ランキングの1位に推している(注・記者投票で決まるESPN.comの総合ランキングでは井上は4位)。また、リングマガジンのフィリピン系アメリカ人ライター、ライアン・サンガリア記者もほぼ同意見だった。

「井上が苦しんだことで、多くのファン、関係者は驚かされた。ただ、初めてのピンチを味わいながら、それでも最後は経験豊富なドネアよりも力強くファイトを締めくくったことを忘れるべきではない。下の階級から上げてきた井上はドネアよりも明らかに小柄だった。それにもかかわらず、終盤は明らかに上回ったんだ。バンタム級では最高級のパンチャーであるドネアのパンチを耐え切った意味は大きい」

厳しい声はほとんど聞こえない。

 この2人の言葉通り、驚異的な戦績を引っ提げた鳴り物入りの“怪物”は米リングにもしばしば現れるが、初めての試練で心身両面から崩れてしまう姿を見るのも珍しいことではない。しかし、井上はアメリカでも名が知られたドネアの脅威にさらされながら、終盤に再びペースアップしてみせた。最終的には明白に実力上位を印象付けたことで、真価を証明したと考えることもできる。ダメージを受けたことより、そこから立ち直ったことの方を評価するのは、セカンドチャンスの国であるアメリカらしいとも言えるのかもしれない。

 もちろんこの2人の意見がすべてではなく、中にはドネア戦後、自身のパウンド・フォー・パウンド・ランキングで井上の順位を下げた識者もいるのかもしれない。ただ、少なくとも筆者が知る限りでは、厳しい声はほとんど聞こえてこなかった。11月7日のドネアのコンディションは明らかに最高級であり、そんなレジェンドと井上が演じた好ファイトを素直に讃える意見が非常に多い。

【次ページ】 「彼の将来に好影響を及ぼすはずだ」

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井上尚弥
ノニト・ドネア

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