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伝説のヨットマン、最後の大勝負。
セールGPはヨットのF1になれるか。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byYuki Suenaga
posted2019/10/25 15:00
早福和彦(右)と笠谷勇希(左)。日本にヨットレースを観るという文化を根付かせる戦いが始まる。
「海を見るとホッとするでしょう?」
今後、日本がセールGPを戦う上で、必須の課題は、アウタリッジに代わる日本人スキッパーを発掘することである。
日本は四方を海に囲まれた海洋国でありながら、セーリング後進国だ。およそ300年に及んだ鎖国の歴史、「ヨット=金持ちの道楽」という先入観、条件のいい海岸はすべて漁業関係者におさえられてしまっている等々の事情もある。いずれにせよ、早福の究極の夢は「ヨットが日本に根付くこと」である。
日本艇は過去4度、アメリカズカップに挑戦した。だが、一時的なブームにはなったものの、文化として定着するまでにはいたらなかった。
セールGPはアメリカズカップにない強みと魅力がある。軌道に乗れば、毎年、日本で、日本人のクルーが、世界を相手に戦うのだ。早福はそこに賭けた。
「海に囲まれてるのに日本人は海で遊ばない。でも、海は好きなんですよね。海を見るとホッとするでしょう? そういう精神的なものは脈々と受け継がれている。
セールGPは、今までのヨットの概念を根底から覆してくれる。観れば、必ず『おっ!』ってなる。ラリーはヨット好きであるのと同時にビジネスマン。可能性がないものに出資なんてしない。日本人の遺伝子の中には海への思いが眠ってるはず。海洋民族ですから。その記憶が蘇るようなものになって欲しいよね」
早福は今年で54歳になる。おそらく、これだけのチャンスはもう巡ってこないだろう。伝説のヨットマンの最後の、そして最大の勝負が始まった。