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高野連・竹中雅彦さんは誠実だった。
どんな批判にも耳を傾けた事務局長。 

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byKyodo News

posted2019/10/22 11:00

高野連・竹中雅彦さんは誠実だった。どんな批判にも耳を傾けた事務局長。<Number Web> photograph by Kyodo News

2017年、ニカラグアでの野球に努めた際の竹中雅彦事務局長(左)。幅広く野球界の発展に尽力した。享年64歳。

「勉強になったわ。参考にさせてもらう」

 竹中さんは、決して指導者の悪口は言わなかった。指導者とメディアの間に立ち、選手のための改革を進める解決策を模索していた。そして、高野連としての説明責任とも向き合っていた。

 日本高野連が新しい方向へ動き出すのは、竹中さんが事務局長である今が最大のチャンスだ。そんな空気を多くの記者やジャーナリストが感じていたはずだ。

 昨夏、高校野球界の問題点を整理した拙著『甲子園という病』を上梓する前後のことだ。

 竹中さんは筆者の主張を読んだ上で「言いたいことはわかったし、勉強になったわ。すぐに取り入れられるかは分かれへんけど、参考にさせてもらう」と声をかけてくれた。

 日本高野連や野球界全体の変化が遅いのは、業界全体の知識不足によるところも大きい。これまでの成功体験から抜け出せず、世界で起きていることにアンテナを張ることも少ないので、古い思考のまま止まっている。

 その結果が、野球人口の減少や健康問題に直面している現状だろう。

今年の夏から決勝戦前に休養日が。

 だが、竹中さんが事務局長に就任して以降、状況は確実に変わりつつあった。

 昨夏の甲子園では金足農業の吉田輝星(現日本ハム)の登板過多が社会問題になった。その中で、準決勝戦終了後、「甲子園決勝戦は本当に明日でいいのか」というコラムを出した。1日の休養日を設けることができるはずだという主旨のものだったが、それから1年、今年の夏から決勝戦の前に休養日ができた。

 コラムが高野連を動かしたとまでは言わないが、竹中さんがトップにいたからこそ大きな一歩に繋がっているという思いもある。

 近い将来、甲子園でも「球数制限」が実施される見込みだ。最終決定はまだで、何球で制限するかなど議論の余地があるにせよ、高校野球の歴史が動き出そうとしているのだ。

【次ページ】 残っていた任期はあと2カ月だった。

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