ぼくらのプロレス(再)入門BACK NUMBER
32年が凝縮されたライガーvs.みのる。
“人間サンドバッグ”と座礼の記憶。
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byEssei Hara
posted2019/10/18 11:30
ゴッチ式パイルドライバーでライガー(右)を仕留めた鈴木みのる。戦いを終えた後、32年分の礼を伝えた。
大の字のライガーに向けた座礼。
試合後、大の字になって立てないライガーに若手2人が駆け寄ると、イスを持った鈴木が若手を蹴散らし、マットに膝をついてライガーに向かって深々と座礼をした。
この座礼は、ライガーと鈴木が若手時代、新日本の道場や、第1試合開始前のリング上でスパーリングをしたあとに必ず見られた光景。かつてのスパーリングでは、お互い膝をつき向き合って「ありがとうございました」と座礼していたが、大の字になって立ち上がれないライガーに対しても、鈴木はあの頃と同じように座礼したのだ。
筆者はこの試合の翌日、ライガーと鈴木の共通の師匠である藤原喜明を取材する機会があり、スパーリング後の座礼の意味を聞くと、こんな答えが返ってきた。
礼に始まり、礼に終わる。
「あれは昔から、新日本の道場で行われていたことなんだよ。スパーリングに限らず、練習開始のときは、みんなで正座して『よろしくお願いします』で始まり、練習の最後も正座して『ありがとうございました』で終わる。礼に始まり、礼に終わるということを必ずやっていたんだよね。
俺たちのやってることって、礼儀を取ったらただの“暴力”になっちゃうだろ? プロのスパーリングっていうのはね、練習とはいえ、先輩後輩関係なく、『極めてやる!』ときには『ぶっ殺してやる!』と思いながら、本気でやるもんなんだよ。
でも、そういう本気の練習、本気のスパーリングっていうのは、相手がいるからこそできること。だからこそ、練習が終わると『ありがとうございました!』と、座礼するわけだ。そして俺たちは毎日練習するわけだから、『明日もよろしくな』っていう意味合いもあったりもする。だからあの座礼っていうのは、欠かさなかったよね」
鈴木は、ライガーとの32年分の想いを込めた“手合わせ”を終え、「ありがとうございました」と座礼した。握手で終わらず座礼で終えたのは、まだ3カ月弱現役生活を残すライガーに対し、「まだまだやるぞ」という思いを残したのかもしれない。
花道を戻る鈴木の表情も含め、そんないろんなことを想像できるラストシーンだった。