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「酷暑=日本有利」は見当違い?
ドーハのマラソンで見た、真の強さ。
posted2019/10/17 16:30
text by
金哲彦Tetsuhiko Kin
photograph by
REUTERS/AFLO
何が起こるか分からない。一方で確実なものもある。世界陸上で、マラソンなどのロードでの種目を見て、あらためてそう思った。
今回はテレビ解説のためにドーハに入った。一番心配されていたのが暑さだった。実際に女子マラソンの時は異常なレベル。午前0時スタートの深夜レースにも関わらず、気温は32度、湿度74%の厳しいコンディションで、途中棄権28人、棄権率は4割という惨状だった。天満屋の武冨豊監督が「もう二度とこんなレースは走らせたくない」と言っていたそうだが、それもうなずける。おそらく来年の東京五輪よりも過酷なコンディションだったと思う。
競歩も同じように酷暑で棄権者が続出し、この調子では男子のマラソンも思いやられると心配していたら、男子マラソンの時は気温29度、湿度の方は51%とぐっと下がり、比較的走りやすいコンディションになった。
東京五輪も暑い暑いとは言われているが、蓋を開けてみなければどうなるか分からない。天候というのはどこまでいっても不確実なものだからである。
この期に及んでまさかの東京五輪マラソン競技の北海道開催プランも急浮上してきた。準備を重ねてきた選手や関係者からすれば、何を今さらという心境だろう。北海道も日差しがさせば十分に暑いが、湿度は大きく下がる。『北海道マラソン』と同じコースで行うとすれば、起伏が少なく平坦なだけにレース展開も大きく変わってきそうだ。
トップ選手の走力と勝つための準備。
天候を含めたそれらの不確定要素に比べてずっと計算ができると思ったのは、どんなコンディションであっても揺るがないトップ選手たちの走力だった。
女子で優勝したルース・チェプンゲティッチ(ケニア)のタイムは2時間32分43秒。大会史上最も遅いというけれど、それでも32分台である。周りが落ちていったからトップに立ったわけではなく、35km付近で自分から仕掛けていって勝利をつかんだレース運びも見事だった。あれだけ過酷で完走率も低い中で勝つ選手というのは、やっぱり強かった。
男子で優勝したレリサ・デシサ(エチオピア)のインタビューも聞いていたが、彼も「暑いのは分かっていた。その中で勝つために自分たちは準備をしてきたんだ」とはっきり語っていた。勝つ選手というのは、さまざまなことを想定した上で、できる限りの準備をしている。「いくら世界のトップでも酷暑の中では落ちてくるだろう」と日本の選手が考えたとしても、彼らは「暑いんだったら暑い中で走れるようにちゃんと練習してくる」ということだ。