F1ピットストップBACK NUMBER
台風通過後の鈴鹿でメルセデスV6。
図抜けた現場スタッフの信頼関係。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2019/10/15 12:00
ハミルトン(左白キャップ)、ボッタス(右白キャップ)がチームを信頼して大人の戦い方をできるのがメルセデスの強さ。
カギだったピットストップの戦略。
バレスが選択したひとつの戦略は、2ストップ作戦だった。しかし、抜きどころがほとんどない鈴鹿では、ピットストップによって遅いマシンの後ろに下がってしまうと、2ストップのメリットを生かすことができず、作戦が機能しない可能性がある。
そこで、バレスは予選で速かったほうのドライバーに2ストップ作戦を与え、遅かったドライバーには1ストップ作戦を採ってもらうことをレース前の全体ミーティングで提案し、全員が納得してレースに臨んだ。
幸い、スタートで好ダッシュを決めたバルテリ・ボッタスがトップに立ち、チームメートのルイス・ハミルトンはフェラーリの後方からのレースとなったため、メルセデスは戦前の予定通り2台で異なる戦略でレースを進めた。
その作戦が功を奏して、レース後半に入るとメルセデスはハミルトン&ボッタスの1-2体制を築くことに成功。そのまま、チェッカーフラッグを目指すかと思われた。
ハミルトンから勝利を奪う指示。
ところが、この日の鈴鹿の路面は想像以上に滑りやすく、タイヤの性能劣化が激しかった。残り10周で「タイヤが最後までもたない」と判断したバレスはハミルトンに、2度目のピットインの指示を出す。それは、レース前の約束と異なるだけでなく、トップを走るハミルトンから勝利を奪う決断でもあった。
通算5度のタイトルを獲得し、現役最多となる通算82勝を挙げているハミルトンから、結果的に勝利を奪うこの指示は簡単なことではない。チームによっては、ドライバーが同意しないケースも考えられる場面だった。しかし、ハミルトンはバレスの指示に従った。ハミルトンの中に疑念がまったくなかったわけではない。
「もし、このままタイヤをいたわり続ければ、1-2のチャンスはあったと思うから、レース後のミーティングでその点は確認したい」(ハミルトン)