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ただの将棋の強いおじさんではない。
AI時代にすり寄られた木村一基王位。
posted2019/10/10 08:00
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph by
Kyodo News
加藤一二三、谷川浩司、羽生善治、渡辺明、藤井聡太と続く、史上5人しか出現していない中学生棋士の輝かしい足跡が示すように、「早熟」が何よりのアドバンテージとして幅を利かすのが将棋の世界だ。
そんな中にあって、46歳3カ月という年齢で念願の初タイトルに届いた木村一基新王位の奮闘は、まさに大快挙と呼ぶに相応しい。
それ以前の年長記録は、当時37歳6カ月だった'73年の有吉道夫九段の棋聖獲得。今回の王位戦で大幅に書き換えられた史上最年長記録は、振り返ればそれから46年ぶりで、今度こそ不滅の大記録なのかもしれない。
棋界の常識を外れた偉業の数々。
さらに付け加えれば、7度目のタイトル戦挑戦での初奪取も史上最も多くはね返されたニューレコード。四段昇段後22年5カ月、初挑戦('05年竜王戦)から13年11カ月かかっての達成も、全て史上最長の記録としてクローズアップされている。
木村一基が、棋界の常識からどれほど外れたことをやってのけたかがわかる。
木村の四段昇段は'97年。その時すでに23歳という遅咲きで、エリートの雰囲気はなかった。それでも新人賞を獲得し、'99年には.797で全棋士中の勝率1位。さらに'01年には73局を指し、61勝をあげ、勝率は驚異の.836。最多対局、最多勝、最高勝率の3部門で1位を独占して、存在感を示した。
しかし、それほど勝ちまくってもタイトルには手が届かなかったのだから、上位のエリート棋士たちの壁の分厚さを思い知ったことだろう。
その座右の銘は、あまりにもしっくり来過ぎる「百折不撓」。目標を見失うことなく何度失敗しても諦めずに戦う、という意味の言葉を、ファンから求められた色紙に好んでしたためる木村なのだ。