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将棋は5歳、ランニングは4歳から。
ほぼ毎日走る信念の棋士、菅井竜也。
text by
寺島史彦(Number編集部)Fumihiko Terashima
photograph byAsami Enomoto
posted2019/10/05 08:00
撮影後に「走り足りないので、これから走りに行きます」と笑った菅井竜也七段。
将棋のことを忘れる5分間。
「45分間走った後、最後の5分は、ほぼ全速力で追い込みます。だいたいランニングの最中でも、将棋の局面や次の対戦相手のことを考えていますけど、この5分間だけは吹っ飛んでます。まあ、キツくて(笑)。毎日この5分はイヤですね。1分将棋とかあっという間じゃないですか。それなのにこの5分は、本当に長いです」
ではイヤなことをなぜ、続けられるのか。その理由をこう続けた。
「苦手なことやイヤなことを1日1回、クリアしたいんです。人間と人間の勝負ですから、あきらめないとか、辛抱強く耐えるとか、そういう要素が将棋には必要だと思います」
すべては将棋のために。
真面目で、ストイック。そして、言葉を選ばずに言えば「頑固」。
それが菅井竜也という棋士の魅力だ。ランニングのことを話す時には笑顔の絶えない彼も、将棋のことを話す時は真剣そのものだ。
プロになると東京や大阪を拠点とする棋士が多い中、彼は生まれ育った岡山に今も暮らす。棋士が集まって研究を重ねる「研究会」や実戦形式の練習将棋もしづらい環境だが、「地方に住み続けることで、不利な要素はありません」と言い切る。
「昔の大先輩の話では、東京の最新情報が地方に届くのは1カ月後。大阪でも1週間後だったそうです。でも今はコンピュータがこれだけ進歩していますから、情報で遅れをとることはない。それでも10代のころは都会に出たかったんですよ。でもじきに、どこにいても将棋が強くなるのは自分次第だということに気付いたんです」
コンピュータに評価されない戦法を愛して。
現代将棋はコンピュータと切っても切れない関係にある。彼もコンピュータ将棋で強くなった棋士だ。
そして、'14年には棋士と将棋ソフトが戦う「第3回電王戦」でソフトに敗れた経験もある。コンピュータの進化とともに、振り飛車を指す棋士は減ってきている実情もある。その理由をこう話す。
「コンピュータの強さは、今は人間を遥かに超えています。そのコンピュータでは振り飛車が評価されにくくなってきているんです。もっと言えば戦法として成立していないというような厳しい見方もされている。
でも一方で、アマチュアでは振り飛車の人気が高いんですよ。プロで流行しているような居飛車の将棋はアマチュアの方々には難しすぎます。やっぱりプロの棋士はファンに喜んでもらえる将棋を指さないといけないですし、なにより自分はコンピュータに評価されなくても、振り飛車が一番いい戦法だという感覚があるんです」