オリンピックへの道BACK NUMBER
ラグビーを断念し、再びハードルへ。
寺田明日香が取り戻した“新鮮さ”。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byMATSUO.K/AFLO SPORT
posted2019/09/29 11:30
約6年のブランクを経て、29歳で迎える今大会は10年ぶりの世界選手権出場となる。
出産を経て、7人制ラグビーへ。
そんな寺田は、大学に入学、さらに結婚と出産ののち、2016年に7人制ラグビーへのチャレンジを始める。有望選手を発掘する日本ラグビーフットボール協会のトライアウトに合格し、練習生という形で日本代表の合宿に参加。クラブチームでもプレーした。
実はそれ以前にも、知人のラグビー選手から勧誘されたこともあった。そのときは断ったが、再度、別の知人から誘われ、決意した。
アスリートがアスリートとして第一線でいられる時間は決して長くない。だったらチャレンジしようという思いだった。
とはいえ、その道のりは簡単ではなく、結果ラグビーは断念。そして昨年12月、陸上への復帰を表明。すると6月の日本選手権で3位になり、8月には日本タイ記録。そして9月には日本新記録を樹立するとともに、世界選手権参加標準記録を突破。見事、10年ぶりの世界選手権出場をつかんだのである。
「懐かしいというより新鮮」
急ぎ足に、足跡をたどってきた。あらためて強い印象を受けるのは、他の競技に打ち込んでいた期間はあるにせよ、長いブランクがありながら、復帰後にかつての自己記録を大きく上回るタイムを出すまでに進化したことだ。
理由はいくつもあるだろう。1つには、復帰戦で「懐かしいというより新鮮」と語った言葉に手がかりがある。
引退時、消耗していたということは、陸上に疲弊していたということでもある。
当時感じていたハードルへの怖さも、復帰後はなくなっていたという。引退後の期間にさまざまな経験を積んだのがプラスになったのは間違いない。離れたからこそ見えることもあるし、思いも新たにできる。
また異なる競技とはいえ、スポーツに取り組むことで、スポーツそのものへの意欲もかきたてられただろう。だからラグビーを断念したあと、再び陸上へ、と思えた。
根本は、心のありようであったように思える。だからこそ、いくつものわらじをはき、家庭もあるのでやりくりを強いられながらの練習の日々の中で、自己ベストを、そして日本記録を更新するまでになった。
そんな寺田の描いた足跡は、後進へのなにかしらの道標にもなりえる。
当の本人は、10年ぶりの大舞台でどのような走りを見せるのか。
復帰までの時間が今につながったように、世界選手権での経験もまた、次へとつながっていくはずだ。