ラグビーPRESSBACK NUMBER
横浜国際で蘇ったトルシエの怒り。
ラグビーの迫力は伝わっているか。
text by
金子達仁Tatsuhito Kaneko
photograph byGetty Images
posted2019/09/24 15:30
ラグビーW杯決勝の舞台となる横浜国際総合競技場。世界トップレベルの駆け引きや鍛え抜かれた肉体がぶつかり合う音は、しっかりと届いているだろうか。
トルシエには理解できなかった感覚。
敗因を自分たちの力不足ではなく、スタジアムに求めるのは、日本人の感覚からするといささか卑怯ということになるのかもしれない。だが、敗因をスタジアムに求めない日本人は、フランス人の感覚からするとあまりにもスタジアムの持つ力に対して無頓着だった。21世紀のワールドカップでありながら、当たり前のように陸上競技場で試合を開催する感覚が、日本に愛着を抱くようになっていたトルシエには、あまりにも焦れったく、そして悔しかったのだろう。
残念ながら、あのワールドカップから17年がたったいまも、日本の状況はあまり変わっていない。
ニュージーランド対南アフリカ、アイルランド対スコットランドという大会序盤屈指の好カードが組まれたのは、2002年ワールドカップ決勝が行なわれた横浜国際総合競技場だった。2試合をみて、わかったことがある。
陸上トラックのあるスタジアムは、サッカーの魅力をかなりスポイルするが、ラグビーの魅力は大幅にスポイルする。
陸上トラックのあるスタジアムは、ラグビーの好ゲームを平凡な試合に、平凡な試合を退屈な試合へと変える。
カメラマンと記者席では……。
どうしちゃったんだよ、スコットランド──と言いたくなるような試合が終わった直後、サッカー場でしか会ったことのないカメラマンとバッタリ出会った。開口一番、彼が口にしたのは、スタンドはるか上部の記者席で見ていたわたしにはとても思えなかった感想だった。
「いやあ、やっぱり迫力、すごいっすね」
前日に見たニュージーランド対南アフリカの一戦は、両者の意地が真っ向からぶつかりあった好勝負だった。超高速域での鮮やかなハンドリングや、糸を引くようなキックパス、さらには意表をつくドロップゴールなど、見どころは満点だった。
ただ、そんな試合でさえ、わたしの中に「迫力」という単語は浮かんでこなかった。勝負という点ではより淡白な印象を受けたアイルランド対スコットランド戦の直後となれば、なおさらだった。