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セリーナvs.ヒンギスの構図に似た、
大坂なおみとベンチッチの宿敵関係。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2019/09/03 20:00
ベンチッチの完璧な試合運びの前に屈した大坂なおみ。逆に言えば、彼女にもまだまだ成長の余地があるということだ。
大坂はチェス的なタイプが苦手?
テニスには<チェス>を使った表現がよく出てくる。ベンチッチの姉貴分であるマルチナ・ヒンギスは、究極に巧い組み立てとすぐれた予測能力から<テニス・チェスプレーヤー>と呼ばれたりもした。そのヒンギスを育てた母親でコーチのメラニー・モリターのもとで、ベンチッチは腕を磨いたのだ。
また、全仏オープンを制して大坂から世界1位の座を奪ったアシュリー・バーティは、「球種やコース、高低に深さに緩急——あらゆる選択肢の中から的確なものを選んで組み立てていくテニスというゲームは、難解なパズルのようでチェスにも似ている」と語った。
今大会の1回戦で苦戦した相手、アンナ・ブリンコワはチェスが趣味で、テニスプレーヤーになるかチェスプレーヤーになるか迷ったほどの実力の持ち主だそうだ。そう言われれば、随所に賢いプレーを見せていた印象だ。
この手のプレーヤーを大坂が苦手としているように思えるのは、気のせいだろうか。バーティには昨年の全豪オープンで勝利したものの、直近の対戦となる昨年の芝のノッティンガムではストレートで敗れている。
また、大坂が今のところ勝ち星のないまま3敗以上を喫している唯一の相手が、ウィンブルドンの1回戦で対戦したカザフスタンのユリア・プティンツェワなのだが、この身長163cmと小柄な24歳の趣味がまたチェスなのだ。余談だが、数独も好きらしい。
セリーナもヒンギスとはほぼ互角。
チェスが趣味――つまり頭脳派と括ろう。頭脳プレーをより有効にするためには技巧的でなければならず、頭脳派と呼ばれるプレーヤーは同時に技巧派であることが多い。
パワープレーヤーにとっての難敵はこの頭脳派・技巧派であるケースが多く、たとえばセリーナ・ウィリアムズが長いキャリアの中でほぼ互角の対戦成績を強いられた数少ない相手はヒンギス(7勝6敗)だ。
この先、大坂を苦しめ続ける敵も同じタイプのプレーヤーなのだろうか。脅威だが、特にベンチッチとのライバル物語の行方は同時に楽しみでもある。
同じ1997年生まれ。女子テニスのゴールデンエイジと呼ばれた世代である。今は伸び悩んでいるが、一昨年の全仏オープンを20歳で制したエレナ・オスタペンコも同い年だ。